2025年に購入したアルバムで一番濃く印象に残ることは、ほぼ間違いないと思っています。相変わらず気が向くと新宿の Disk Union あたりをぶらつくのですが、最近の自分の命題としている美人ジャズ・ボーカリストの発掘ができないものかと棚を見ていてもピンとくるアーチストは見当たりません。入ると手ブラで帰るのも嫌なので、何かしら購入するのですが、Chris Corner は、最近立て続けに購入しているのでパス。ふと目に留まったのが、Nina Simone の黄色いジャケット。あの、おっかない感じの方で、お世辞にも美人ではありませんが Nina Simone と Piano ですか。気になるとこではありますので、他にも気になるところを数枚購入して、いつもの音楽好きの集う「おでんバー」へ。
マスターに、持っているか聞いたところ、持ってはいないし、おそらく初めて聴くはずだとのこと。他に誰もいなかったので音量は大きめにセットして、聴くとクラシックのようでありながら力強いピアノが流れます。ボーカルが入ってくるとマスターも私も、思わずビクっとしてしまいました。大迫力です。ピアノだけのバックですからボーカルの輪郭はくっきりで、ひたすらスゲエの連発となりました。
これを聴き終わってから youTube で、マスターがよく見ている Nina のピアノ弾き語りのライブを片っ端から見ていき、Stars (at Montreux Festival in 1976)で、ステージから「座れ」と鬼の形相、大迫力で思わず「ヤバい、やべえっす。怒ってます」常に本気でステージに挑んでいた物凄い気迫を感じました。
Nina Simone が、クラシック音楽教育で有名なジュリアード音楽院でピアノ・レッスンをンを受けたが、進学してピアニストになりたかったが、人種差別によってその道を断たれたエピソードは、ファンでなくとも知っている人は多いと思います。私もピアノの弾き語りは何度か聴いてはいるものの、アルバムで聴くのは今回が初めてでした。最初に聴いた衝撃を書いてしまったのですが、全曲レビューしていきます。
Seems I'm Never Tired Lovin' You ブルース曲で、品行方正で、しっかりとしたタッチで、リズムをフェイクすることないピアノのイントロは、このままピアノ曲になるのかと頭をかすめたところで、Darlin' と始まる。ピアノの中から、いきなり飛び出てくるような頭で、ドキっとします。ブルースでありますが、国歌斉唱のような凛とした歌いっぷりに圧倒されながら、Never, never, never, never, never, Tire of Lovin' You と 締めくくる。録音は1968年9月16日、10月1日。この年の春1968年4月4日にキング牧師の暗殺があった約半年後の録音です。力強く歌い結ばれる、この言葉には恋だけではないものが含まれるような気もします。It's Nobody's Fault but Mine 作曲は Nina のブルースですが、この人が歌うとスピリチュアルな曲に聞こえます。If I die and soul be lost, Nobody fault but mine と「私が死んだとしても、ソウルを無くしたとしても、みんな私のせいよ」と繰り返します。この曲もキング牧師へのレクイエムのように聴こえます。 I Think Its Going to Rain Today 教会の讃美歌のようなピアノと歌で、Randy Newman の作詞、作曲。これも何か深いものを感じる曲です。本家も、こんな曲なのか?と聞いてみると、原曲は、雨の中で打ちひしがれたしょぼくれた男がつぶやいているような哀愁。Nina は、決してしょぼくれていない。むしろ雨に打たれながら、立ち上がっていくような歌になっています、印象的なのは、Tincan at my feet, I think I'll kick it down the street のリフレインの力強さ。Everyone's Gone to the Moon クラシカルな響きのピアノに、朗読調の Nina の歌は、教会の牧師の演説のようでもあり、ミュージカルのワンシーンを見ているかのようでもあります。Compensation これは、オルガンと Nina のコーラスがオーバー・ダブされている、ゴスペルとアメリカン・フォークのミックスのような曲になっています。God in his great compassion, Gave me the gift of song がメインとするとゴスペルの方が強いですね。そして Who Am I? がまた、力が入っていてヤバいです。弾き語りというよりは、ピアニストが別にいて Nina が、マイクを持って舞台の中央に立ちながら力いっぱい身振り手振りしながら歌っているような感じがします。Another Spring は、最初に物語を語る様な穏やかな語り口ですが、直ぐに興奮した牧師の説教のような力の入った語りに変わり、次いでゴスペル歌手が迫力で歌い上げ、また牧師が語るような感覚です。とにかく言葉の力強さと感情があふれ出ていて、気の弱い子供なら席で委縮してしまうような迫力。The Human Touch やっと優しく穏やかな曲が来ました。Charles Reuben の作曲とありますが原曲は見つかりませんでした。2分10秒の休憩時間です。I Get Along Without You Very Well この曲は、ささやくように女心を歌っているせいかマイクがいきなり近くなります。今まで感情を思い切り出すように声を張り上げていたのに、雨だれが落ちるのを見たり、月を見たり、春になるとあなたのことを思い出し切なくなる。最後の Surely break my heart in two が切ない。The Desperate Ones 最後はシャンソンです。英語ですがシャンソンのニュアンスたっぷりに感情をこめて歌っています。
これで本編は終わりでボーナストラックになります。Music for Lovers オルガンの濃厚なサウンドで、力強くスピリチュアルに歌います。ソウル・シンガーではないクラシカルな個性が出ているように聴こえます。In Love in Vain 華やかなピアノのイントロ。伸びやかに広がる曲で迫力はあるけど、爽やか。I'll Look Around 静かに歌う時に少し舌ったらずな発音と語尾をワザと曖昧な音程にするのが、Nina の表現手法の一つと思っています。この曲も最初に使いながら、あとは弱めの声量でも綺麗に歌いこんでいるので、そこら辺がよくわかります。脅されるように歌われたり、優しくささやかれたり、ボーナストラックも、おまけでない仕掛けに心躍らされます。The Man with the Horn スケールの大きな曲が最後で、ゆったりとした曲に身を任せながら、聴き手に聴かせるように歌うのではなく楽しんで歌っているように感じます。おまけのボーナスまで美味しいアルバムでした。
英語圏の人間ではない私ですが、1曲1曲の Nina の伝えたいものを理解したいと思いながら、一生懸命解読しながら感じながら聴いてしまい、書きどころ満載の素晴らしいアルバムでした。36歳でこの作品か🎶🎹
vocals, piano, organ, arrangements : Nina Simone
recorded September 16 & October 1, 1968 at RCA Studios, New York City
1. Seems I'm Never Tired Lovin' You / Carolyn Franklin
2. It's Nobody's Fault but Mine / Nina Simone
3. I Think Its Going to Rain Today / Randy Newman
4. Everyone's Gone to the Moon / Jonathan King
5. Compensation / Paul Laurence Dunbar, Nina Simone
6. Who Am I? / Leonard Bernstein
7. Another Spring / Angelo Badalamenti, John Clifford
8. The Human Touch / Charles Reuben
9. I Get Along Without You Very Well (Except Sometimes)/ Hoagy Carmichael
10. The Desperate Ones / Eric Blau, Gérard Jouannest, Mort Shuman
【Bonus tracks】
11. Music for Lovers / Bart Howard
12. In Love in Vain / Jerome Kern, Leo Robin
13. I'll Look Around / George C. Cory Jr., Douglass Cross
14. The Man with the Horn / Eddie DeLange, Jack Jenney, Bonnie Lake