本作は1977年8月23, 24, 25日での、ハリウッド、キャピトルスタジオ録音されています。メンバーは1966年から事故死した Scott LaFaro の後継者として Bill Evans を支えてきたベースの Eddie Gomez、Crosscurrents(1977)Affinity(1979)のアルバムに参加しているドラムの Eliot Zigmund のトリオによるレコーディングで、このメンバーでは最後のレコーディングとなっています。この録音後、ビル・エヴァンスは1980年に亡くなり、没後の1981年に追悼盤としてリリースされています。
水のように静かに響く内省的な魅力を秘めた曲が中心で決して幸せな気持ちで楽しんでピアノに向き合っていたわけではないことが音からわかります。この頃の Bill Evans は人生の中でも哀しい出来事が多すぎたことが知られています。12年の間連れ添った事実上の伴侶のエレイン夫人が1973年に自殺しています。またアルバムの録音後1979年の4月には音楽教師だった兄ハリーが自殺しているのです。(We Will Meet Again の 副題 For Harry はこのアルバムが発表されたことによる副題 )
晩年の Bill Evans は、麻薬によって身体や顔がむくんでしまったことを隠すために髭を蓄えたり、ピチッとスーツを止めたりしていたそうで、時として指がむくんでしまって演奏に支障をきたすときもあったそうですが、この録音は良好な状態の時に録音されたようで、全く異常は感じ無い、後期の中でも素晴らしい録音と言われています。
実際、改めて聴いてみていますが、かなり良い出来であり、聴きこんでの全曲レビューをしていきます。
「B Minor Waltz (For Ellaine)」静かな鎮魂歌のようなテーマが、ゆっくりと展開されてテーマ部分が自然にアドリブに流れて行ってまた戻ってきます。亡くなってしまった内縁の妻 Ellaine のための曲ですが、1973年に彼女に別れ話をしたのは Bill Evans で、同年に原因であったネット・ザザーラと結婚しています。と言うことは彼女への愛ではなく謝罪の思いが込められた鎮魂歌なのかと思うと複雑です。「You Must Believe In Spring」最初はルパートのピアノ、そしてテーマ、よく聴いていると解説通りテーマ部分はテンポは微妙に揺れていますが全く違和感なく進行しているように聴こえます。そして自然な流れでのベースソロからピアノソロ、Eddie Gomez の積極的な介入と Bill Evans のピアノの相性の良さが際立ち、2曲目で静かにピークを迎えています。「Gary's Theme」更にメランコリックな曲調で高音の音の使い方が芸術的です。その美しいピアノの波の中で漂うような Eddie Gomez のベースは秀悦です。各楽器の音の粒立ちも良く録音も素晴らしい。「We Will Meet Again (For Harry)」先にも書きましたが For Harry とありますが、録音の時にはお兄さんは亡くなっていませんので、劇的な展開であるが故、プロデューサー兼マネージャーであった Helen Keane が副題を付けたものと思われます。「The Peacocks」孔雀の華やかなイメージよりは、絵にかいてある動かない孔雀をボーっと見つめているような始まりでぼんやりとしていますが、後半は情感が入ってきて静かな中に力強さが見えます。「Sometime Ago」これも静かな曲ですが、アルバムの中では穏やかな明るさがあり、よく聴くと静かに弾いてはいるが一音づつのアタックの強さが聴いてとれます。ベースソロへの流れも自然。「Theme From M*A*S*H」オリジナルでは最後の曲は、「M*A*S*H」という映画の主題歌。副題は物騒な感じですが悲壮感はなく楽し気な感じさえします。このアルバムではリズミカルな曲に入るのでメンバーの演奏も軽めです。
以降は Bonus Tracks となります。「Without A Song」 静かに始まりはするものの、いきなりハッピーな展開に戸惑います。あくまでも、おまけなので優秀な演奏をつけておくコンセプトのようです。「Freddie Freeloader」 Miles Davis / Kind of Blue (1959)にて唯一外された曲の録音があったので載せておいた感じです。エレピも導入されています。「All Of You」Cole Porter 作品のラブ・ソングです。コンセプトはオリジナルの微塵もありませんが良い演奏です。
Bill Evans の世界に酔いしれることのできる良いアルバムですが、ボーナストラックに注意をそがれてしまう感があるのが不思議な感覚になってしまう音源でした🎶🎹
piano : Bill Evans
bass : Eddie Gomez
drums : Eliot Zigmund
producer : Helen Keane, Tommy LiPuma
recorded at Capitol Studios, Hollywood, CA, August 23, 24, 25, 1977.
1. B Minor Waltz (For Ellaine) / Bill Evans
2. You Must Believe In Spring / Michel Legrand
3. Gary's Theme / Gary McFarland
4. We Will Meet Again (For Harry) / Bill Evans
5. The Peacocks / Jimmy Rowles
6. Sometime Ago / Sergio Mihanovich
7. Theme From M*A*S*H (aka Sucide is Painless)/ Johnny Mandel
【Bonus Tracks】
8. Without A Song / Vincent Youmans
9. Freddie Freeloader / Miles Davis
10. All Of You / Cole Porter
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