Fantasy Record 時代の最後を飾るラストのトリオ作品で、没後にリリースされた You Must Believe In Spring (1977) と同じトリオ・メンバーでの録音です。スタジオも同じですが、録音日は異なっています。このアルバムは1980年の1月にリリースで、Evans は同年の9月に亡くなっていますので、ぎりぎり存命の時に発売されています。ですが、発売が 1980年なので、「当時の最新作」というよりは、あとから世に出た「遺された録音」として受け止められやすい一枚でなので、演奏の静けさに少し切なさが重なるのもわかる気がします。
この時期のエヴァンスは、Eddie Gómez と Eliot Zigmund との呼吸がかなり成熟していて、3人の会話のようなアンサンブルがまとまりやすい時期でした。
この時期の Evans は、1976年にドラムは1968年から一緒にやっていたドラマー Marty Morell が1976年に Eliot Sigmund に交代しました。先に Lee Konitz, Warne Marsh のカルテットで録音が Crosscurrents (1977)、そしてこのアルバムと You Must Believe In Spring (1977) をベース、ドラムとのトリオで録音しています。ジャンキーであり、肝炎などの病気を患っていた Evans は、繊細で知的、詩的なリリシズム(抒情性)な面のほかに、破壊的内面や、派手ではあるが孤独な側面を見せるようになってきますが、この盤では。ほの暗く、どこか諦念感にも通じる、透明感のある弾き回しを感じます。
I Will Say Goodbye ベースとドラムが前に出すぎず、Bill Evans のフレーズを支えながら、会話のように流れで、ほの暗い透明感があります。
Dolphin Dance Herbie Hancock が Maiden Voyage (1965) のために書いた曲。モーダルな響きと独特の浮遊感が印象的な曲ですが、原曲のモーダルな開放感を和声の余韻を残す方向に自然に置き換えられています。ドラムとベースの下支えによって内省的で落ち着いた印象に変わっています。
Seascape メロディが出る前から曲の温度が決まっているように海の情景を感じる。これもベース、ドラムの下支えがあってこそのピアノの輪郭が浮き出る一体感のある演奏。
Peau Douce フランス語のタイトルで、直訳すると「やわらかな肌」という意味。Evans が好んだ、メロディの美しさや音色の繊細さと相性のいいタイトル。音を詰め込みすぎず、短いフレーズの余白で色を出し繊細さの表現に効いています。
I Will Say Goodbye (Take 2) もともとの Legrand作品で、美しい旋律をトリオでどう深めるかの製作過程として注目して、1曲目と比較して聴いたのだが、どのように表現したものか迷うほどにこちらも良し。
The Opener このアルバムで唯一のオリジナル曲。上品に場を整える感のある作品で、タイトルからすると、1曲目にするつもりで書いたのがアルバムの構成上真ん中になったのか?
Quiet Light やわらかい青みのある透明感と、形の整った演奏で、派手さより透明感があり、音数を増やすより、残響や間で魅せるタイプですね。
A House Is Not A Home Burt Bacharach と Hal David が書いた1964年の楽曲で、もともとは映画 The Cardinal のために作られた曲。歌もののメロディをジャズ・トリオらしい繊細な和声感で再解釈。
Nobody Else But Me メロディがまっすぐで、Evans の細かな和声づけがよく映えていて、静かに気持ちを押し出すタイプです。
Orson's Theme やわらかい抒情と静かな推進力が同居する曲で、Orson が誰かはよくわかりませんでした。空気を整えるように始まる感じが魅力的で、メロディが終わったあとに残る響きが心地よい。
優雅で繊細で美しい哀愁漂う音色に聞き入ってしまいます。賛否が分かれるようですが、私には、これぞ Bill Evans 的なものを十分感じるので、良盤であると思います🎶🎹
piano : Bill Evans
bass : Eddie Gomez
drums : Eliot Sigmund
producer : Helen Keane
recorded (May 11, 12, and 13, 1977), mixed, and mastered at Fantasy Studios, Berkeley.
1. I Will Say Goodbye / Michel Legrand
2. Dolphin Dance / Herbie Hancock
3. Seascape / Johnny Mandel
4. Peau Douce / Steve Swallow
5. I Will Say Goodbye (Take 2) / Michel Legrand
6. The Opener / Bill Evans
7. Quiet Light / Earl Zindars
8. A House Is Not A Home / Bacharach-David
【Bonus】
9. Nobody Else But Me / Oscar Hammerstein II/Jerome Kern
10. Orson's Theme / Michel Legrand
▶ Seascape



