2026年4月15日水曜日

Thelonious Monk / Palo Alto

 


 未発表音源の発売と言えば「Resonance」が最近の定番でしたが、これは1968年の録音が2020年に創立60周年を迎えたジャズの名門「Impuls!」からの発売です。正式な録音でないのですが海賊盤よりもはるかに音は良くて十分聞けますし、ラフな録音がかえって臨場感を増しているような気がします。内容的にもモンクを既に知っている人にも、知らない方にも聴いていただきたい実に楽しい演奏です。

 

 録音された場所はシリコンバレーのはずれにあるカルフォルニア州パロアルトの高校。キング牧師の暗殺は1968年4月4日。米国は国内で多くの都市で怒りに包まれたアフリカ系アメリカ人による暴動が巻き起こったり人種差別に揺れていました。そんな中ジャズを通して人々の結束を願う一人の男子高校生の思いに応えてモンクは高校の学内コンサートに出演のオファーを受けたそうです。熱いオファーを送ったのは少年は当時16歳のジャズをこよなく愛していたダニー・シャー氏、そして録音は高校の用務員のおじさん。1968年の10月27日にライブは行われ、音源はこのライヴの発案者のダニー・シャーの自宅屋根裏で保管されていて、その保管されていた音源が52年後の2020年に発売となったわけです。
 当時の時代背景とかオファーからライブの状況までは、ライナーノーツに英語で、びっちり書かれていました。字が細かすぎて読む気になれなかったのですが、スキャンした画像を、AI(Gemini)にテキスト化するプロンプトを入れるだけ。今まではスキャンした画像をネット上にある無料のオンラインOCRでテキスト化して、無数にある誤字脱字、空白のテキストを手作業で埋めていく膨大な作業でやる気が起きなかったのですが、AIで手間が大幅に省けるようになったので、無料で利用できる AI の賢さと便利さに喜んでおります。

 

「Ruby, My Dear」会場から沸き起こる拍手。メンバーの音出し。これからライブが始まるドキドキ感がいったん静まって曲が始まる。Charlie Rouse のサックスが淡々とテーマを吹き、Monk は、しっかり力を込めたコードを叩きこむ。Ben Riley がブラシワークでドンドンリズムを曲に吹き込んでいくと出だしは上々です。Ruby は Monk の最初の恋人の名前で、この曲は Monk のライブでの鉄板のナンバーだったとのことです。
「Well, You Needn’t」1940年代に作曲された Monk のスタンダード曲。1曲目も良かったですが、ここでバンドはテンポ早めで調子を上げてきます。テーマが終わると Charlie Rouse のサックス・ソロになりますが、1曲目よりも独創性のあるソロを Monk の伴奏に合わせて展開し、ベース・ドラムのリズムセクションも Rouse を煽り Monk のピアノソロにつなげ、Monk もリズミカルな熱いソロ、そしてこの曲の聴きどころと思われる Larry Gales のにアルコ(弓弾き)ソロは、アップテンポな曲に合わせてのリズミカルなソロ。アルコのソロはノペっとしてつまらないものが多いのでこのダイナミックさは聴いていて嬉しい。メンバーはノッてきているので Ben Riley も曲調を変えずにリズミカルで激しいドラム・ソロと「熱い」です。
「Don’t Blame Me」1963年以来定期的に演奏されていた古典スタンダード。Monk の独奏で、リズムが跳ねていながらも、いつもの独特のストライド・ピアノ・スタイルで聴いていて楽しくなる演奏です。ピアノの椅子のきしむ音も録音されていて Monk が鬼の形相で体を揺さぶりながら演奏していたのだろうと想像できます。ライナーノーツでは「きしむ音で演奏が損なわれている」ような解説が書かれていますが、私はリアルでかえって良かったなと思います。
「Blue Monk」単純明快だが Monk らしさの塊りの曲でセッションなどでも、よく演奏され世に愛される名曲です。イントロは、ピアノのみで軽くグルーブをつくり、ベースとドラムが参加してバンド演奏としての一体感を出しサックスのソロ。単純な曲なのに慣れすぎているのか、いまいち振り切れていない感あり。リーダー Monk のソロは、録音の音が少し小さいのが気になりますがマイペースで突っ走り、ダブル・ストップを繰り返し連発するリズム&ブルース感あるソロ、カリンバ的な音の羅列など自由なソロで、さすがリーダー。続いてベースソロ、ドラムソロの個人技の時間ですが、他の楽器は鳴っていなくても曲が進行しているのが理解できるわかりやすいソロなのが、かえって好印象です。
「Epistrophy」1941年に、ドラマーの Kenny Clarke と ハーレムのミントンズ・プレイハウスのハウスバンドで働いていた時に共作した曲で、Monk のライブのセットの締めくくりは、この曲が多かったようで、抽象的な音階のテーマは不思議な魅力。今回は非常にエネルギッシュな演奏でグイグイと聴いている観客を引っ張っていく躍動感、Monk の暴れるような感情のこもった演奏とバンドの力のこもったエンディングは聴いていて爽快。
「I Love You Sweetheart of All My Dreams」総立ちになってヤンヤの喝采の聴衆に最後おまけプレゼントをピアノ独奏お届けしています。静かにピアノを弾き始めると客はうっとり。1分ほどで直ぐに殴りつけるようにコードを叩いて演奏は終わりますが、この短さでも満足度高し。没入すれば音を聴きながら見ているような感覚になれます。

 モンクの代表曲ばかりで安心して楽しめるところと、このカルテットの良さがと充実ぶりが非常によく伝わる名演。これはいつもの「おでんバー」のマスターも気に入ったので、お店のハードディスクに格納されたのもうれしいところ。この音源が録音された1968年の時代背景を先に書きましたが、この録音が発売された2020年は未だ人種差別問題がくすぶっていました。しかし2026年の現在、キング牧師が亡くなった1968年から、58年が経過し人種差別をめぐる不幸な報道が、やっと最近は少なくなってきたように思います。意識改革が進むのには長い年月がかかることと改めて思います🎶🎹

piano : Thelonious Monk
tenor sax : Charlie Rouse
bass : Larry Gales
drums : Ben Riley

producer : Grand Mixer DXT, Danny Sher, Douglas Holloway, TS Monk
recorded at Palo Alto High School on October 27, 1968.
analog tape restoration by Kevin Przybylowski at Sonicraft A2DX Lab, Red Bank, NJ.

1. Ruby, My Dear / Thelonious Monk
2. Well, You Needn’t / Thelonious Monk
3. Don’t Blame Me / Dorothy Fields, Jimmy McHugh
4. Blue Monk / Thelonious Monk
5. Epistrophy / Kenny Clarke, Thelonious Monk
6. I Love You Sweetheart of All My Dreams / Art Fitch, Bert Lowe, Kay Fitch

▶ Palo Alto (Mini Documentary)

▶ Thelonious Monk Quartet in Poland April 1966

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定年退職して延長をしないことにしたので、音楽以外のことをしばらく「ノージョブ定年 NoJobTeinen」と言う別ブログに書いてみることにしました。



  

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