2023年3月11日土曜日

Kenny Burrell with Art Brakey / At The Five Spot Cafe

 

 大学に入り、ジャズ研に入ってもフュージョン系ばかりでウェスぐらいは知っていましたが他のジャズ・ギタリストの知識はほぼ皆無でした。 Kenny Burrell(ケニー・バレル)を知ったのも結構オジサンになってからでしたが、ブルージーなギターなので非常にとっつき易く今では大好きなギタリストの一人です。このアルバムは購入してから数か月家で寝かせてから、行きつけ「おでんバー」で初聴きしたのですが、王道過ぎると完全にBGMとなってしまい、中々の演奏の割に周囲の反応は可もなく不可もなくで、若干つまらない結果に終わりました。へえ、これ誰?ジャケット見せてよ。みたいな反応があると自慢できるんですがねえ。


 さてこのアルバム、ビレッジ・ヴァンガードと並び、ジャズのライブ録音で有名なニューヨークのクラブの Five Spot Cafe(ファイブ・スポット)での録音です。録音は1985年8月15日の、昼の部と夜の部のライブを録音したもので、アルバム前半が夜の部、後半が昼の部で本盤収録と実際の当日の演奏順序は逆だった書いてあるものを見ました。オリジナルLPより本CDのほうが曲目が増え曲順が違っています。メンバーの参加を見るとピアノの Bobby Timmons(ボビー・ティモンズ)が 1~4曲目, Roland Hanna(ローランド・ハナ)が 5~8曲目を弾き、テナー・サックスの Tina Brooks は 1~4曲目の前半参加ということは、昼の部は後半、夜の部は前半は本CDでは正解。オリジナルなら違うと言うことになりそうです。なおTina Brooks はあまり見かけない名前なので私の所有音源で調べてみたら、Jimmy Smith で Groovin' At Smalls Paradise Volume 2 という1958年のアルバム1枚分だけ参加されていました。調べてみると ミュージシャンとしての活動は 1951~1961年ですが、ブルノートとの契約は1958年で薬物依存により引退せざるを得なくなったとのことでなるほど。
 1曲目は Birks' Works は、イントロの黒さ漂うティモンズのピアノのイントロから始まりバレルがシングル・トーンのブルージーなギターで曲の雰囲気を作っていってティナ・ブルックスの高めのトーンの丁寧なテナーサックス・ソロで、ボビー・ティモンズのコード・ソロはカッコイイ!最初から盛り上がります。1曲目のインパクトが大きいです。Lady Be Good はバレルのアルバムによく出てくる曲でガーシュインの作曲です。この曲ではブレイキーのドラミングが冴えています。自身のバンドで見られる派手さは控えめにしているものの短め控えめのナイアガラ・ロールや他の楽器のソロの時に、絶妙のタイミングでスネアを入れて煽り、それに応えるメンバーを聴いていると非常に息の合った演奏です。ティモンズのノリノリのピアノ・ソロではひたすらリズム・キープでスピード感で煽るところなど集中して聴くと店で流して聴いているときと全く印象が異なりますね。Lover Man は、一息入れるゆっくりめの曲。バレルのギターも色気がたっぷりでサービスたっぷりですが音の粒立ちや滑らかさが非常によい脂ののった演奏。ピアノ・ソロの後のバレルのギター・ソロの後ろで寄り添うような小さい音でのフルートのようなテナーも秘かにしびれました。Swingin' これで前半の夜の部が終了となります。最後には一挙に盛り上がりますね。ブレイキーの途中ではさむ行進曲のようなリズムの取り方もセンスあります。Hallelujah アルバムでは後半、ライブ当日では前半が始まります。ハレルヤというよりイメージより混沌とした地獄を感じるようなテーマが斬新で印象的。メンバーが4人に減っただけにソロも長尺長いドラムソロなどもあります。ピアノはローランド・ハナに変更となりティモンズの黒っぽさ漂う演奏からクラシック・ピアノの感覚を感じるピアノになりました。 Beef Stew Blues は、名前からするとR&B的な曲を予想しましたが、正調なジャズ・ブルースをキチンと演奏されている感じです。バレルのイメージはこっちの方がしっくりきます。If You Could See Me Now もシックなバラードでローランド・ハナのピアノが美しく響きます。これを聴きながら昼から酒を飲んだら心地よく寝れそうです。36-23-36 はこのアルバムで唯一のバレルのオリジナル曲でバレルの曲だけに、これぞまさにブルージー。大御所メンバーも勢揃いの盛り上がっている後半ライブを前半に持ってきて聴き手を惹きつけたところで、静かに後半を聴かせるというプロデューサーの Alfred Lion の演出もにくい作品です。

guitar : Kenny Burrell
piano : Bobby Timmons (1 to 4), Roland Hanna (5 to 8)
bass : Ben Tucker
drums : Art Blakey
tenor sax : Tina Brooks (1 to 4)

recorded by : Rudy Van Gelder
producer : Alfred Lion

recorded at "Five Spot", New York on August 25, 1959.

1. Birks' Works
2. Lady Be Good
3. Lover Man
4. Swingin'
5. Hallelujah
6. Beef Stew Blues
7. If You Could See Me Now
8. 36-23-36





  

2023年3月10日金曜日

Sly And The Family Stone / Stand!


 1969年リリースの4thアルバムで、全米で300万枚以上を売り上げ1960年代を代表するアルバムの1枚。ローリング・ストーン誌の『オールタイム・ベスト・アルバム500』においては第121位にランクイン、1968年11月に先行販売のシングル Everyday People は、4週間全米シングルチャートの第1位となっています。
 次作の1971年「暴動」 There's a Riot Going On は、ドラッグまみれになりながらオーバーダブなどでほぼスライが独りで創りあげたアルバムで暗くヘビーなアルバムで評判は必ずしも良くないようです。しかし、このアルバムはバンド全員で作ったハイテンションで解りやすいサウンドになっていて、この落差を楽しむのも面白いのではないでしょうか。


 本アルバムは前述したとおり、バンド・サウンドの勢いに乗っているゴリゴリ・ファンクもあり、ポップ路線もありで、とにかく力強いサイケなサウンドですのでスライの入門として、ここからハマってる人もおそらく多いのではないでしょうか。サウンドの要は何よりも絶好調のラリー・グラハムの強いベースラインで、聴いているうちにどんな人間の気持ちをも高揚させ、体を揺らせる効果があります。そして全体的に多用されるワウとボコーダーがサイケな気分にさせてくれます。
 捨て曲が無いのも名アルバムの要因の一つでしょう。Sing a Simple Song、I Want to Take You Higher はアップテンポに気分を高揚させてくれて You Can Make It If You Try、Stand! などはメッセージ性が強い曲です。また Everyday People、Don't Call Me Nigger, Whitey には政治的・社会的なテーマがあります。特に Don't Call Me Nigger, Whitey という人種差別撤廃を旗に掲げている曲がありながらも黒人の自立を説くブラックパンサーはスライに対して、白人のグレッグとジェリーをバンドから追い出し、もっと黒人寄りの曲を作るように圧力を掛けたと言われており、この時代の背景の複雑さには相変わらず考えさせられるものがあります。やはりこの時代の音楽を聴くには、吉田ルイの名著「ハーレムの熱い日々 BLACK IS BEAUTIFUL」を読み直すとより深いものになるような気がします。 
 本作の発表後の8月には、愛と平和と人種統合の理想を背景にウッドストック・フェスティバルに出演した。アルバム・タイトルの Stand! はこの時代の人種差別などへのメッセージでもあり、ダンスフロアで人々を踊らせながらも Stand! と人種問題への提起を行うアルバムでもあるのが意味深です🎵

vocals, organ, guitar, piano, harmonica : Sly Stone
vocals, guitar : Freddie Stone
vocals, bass : Larry Graham
trumpet : Cynthia Robinson
trumpet : Greg Errico
background vocals : Little Sister (Vet Stone, Mary McCreary, Elva Mouton)

1. Stand!
2. Don't Call Me Nigger, Whitey
3. I Want to Take You Higher
4. Somebody's Watching You
5. Sing a Simple Song
6. Everyday People
7. Sex Machine
8. You Can Make It If You Try

▶ Stand!




  

2023年3月5日日曜日

Herbie Hancock / Quartet

 

 いきつけの「おでんバー」では、ジャズに、こだわりのある方が多いので持って行った音源をかけて反応を見るのが楽しいのですが、傾向として、Bill Evans とJaco Pastorius の反応は悪いことはわかっています。Herbie Hancock、Chick Coreaについては嫌われてハイなようですが反応は薄目、コメントはほぼ無しなので歓迎はされていないようです。という訳で、このアルバムも実験として持って行きましたが1曲目だけ反応があり以降は薄目でした。なんとなく、わかっていましたので別に悔しくもなく、むしろ1曲目に反応があったのは発見でした。(やはり嫌われてはいない)
 と言うことでこのアルバム、ジャケットをよく見ると2Record set on 1 Compact Disc の表示なので2枚のアルバムが一つにまとまっているようです。そのうちダブル可能性があるのでなるべく覚えておきたい情報です。ライナー・ノーツはついていませんでした。裏面には曲目、メンバー、録音場所などは書いてありますが二つのアルバム名は書いてありません。でググって見ると、1981年夏の来日の際、信濃町のスタジオで録音された14曲は二枚のアルバム「Herbie Hancock Trio.1981」「Quartet Herbie Hancock」でリリースされた。日本では前者のアルバムに収録された「ステイブルメイツ」が素晴らしく人気盤となる。しかし「ステイプルメイツ」はこのアルバムには入っていない?ではありませんか。この東京のレコーディングでは2枚分のアルバムが収録されたが、状況証拠としては、本CDで2枚分のアルバムは収録されていないのではないでしょうか?想像するに、CDに入っていたのはライナーノーツが無く、安っぽい1枚の紙印刷物を4つ折りにしたものなので「海賊版のようなもので中身を確かめずに違うCDのジャケットをスキャンしてコストを抑えるために4つ折りにした」で当たっているような気がします。つまりはダブる可能性は無いってことですか。なるほど。


 下調べにだいぶ時間を使ってしまいましたが、状況がわかったところでアルバムのレビューです。Well You Needn't 言わずと知れたモンクのナンバーが1曲目。原曲よりもスピード感あふれる演奏で完璧なフレージングで突っ走ります。特に目立つのは Wynton Marsalis  の独壇場のような正確無比な音使い若干19歳の若者が先輩たちについてこいと言わんばかりのソロを展開し、続くハンコックのピアノ、ロン・カーターのベースも本気さが伺えます。つまらない演奏が多いと言われる Wynton Marsalis ですが、これは当たりのほうの演奏ではないでしょうか。 'Round Midnight もモンクです。ハービーのリリカルなピアノのイントロ、ミュート・トランペットがテーマを吹きフリー・テンポからきっちりとしたリズムになり、いきなりのビッグバンドのような爆音でテーマが終了してソロ回しに展開。ベタですが楽しいかもしれない。そしてテンポ・アップしてまた表情を変え、エンディングは、テンポを落として夜中に散歩に戻るような展開は、これまたにくいエンターテイメント。Clear Ways は Tony Williams の楽曲で、スピード早めのハード・バップ。音量は各楽器マックスの録音ですがピアノ・ソロの時に興奮して誰かがわめいているような音が聞こえます。ハンコックでしょうか?そのぐらいのノリノリの演奏であります。A quick sketch は、Ron Carter の楽曲で16分30秒の大作で、テーマ部分はサビ以外はワン・コードでタイトル通り手早く作った曲なのでしょうか。構造が単純な分、退屈な感じはしますがメンバーの技量が素晴らしいだけに聴きごたえのある内容になっています。The Eye Of The Hurricane はハンコック作曲で、Maiden Voyage でもお馴染みのヤツです。嵐がモチーフの曲だけあってエネルギッシュな演奏にもってこいの楽曲です。ここでもピアノ・ソロで誰かがわめいているかのような音が聞こえます。やはりハンコックですか。そしてトニーのドラム・ソロが本能の演奏と言う叩き方に興奮。終わりも派手ハデでナイス。Parade も Ron Carter の楽曲で今回は短いですが長めの8分。ボサのリズムで良い曲で箸休めのような役回りの曲かと思っていたら後半が熱い。Parade はエレガントなピアノイントロが長めに展開、トニーのリム・ショットが効いたドラムとトランペットで場面を変える。この Wynton Marsalis の演奏も当たりですね。つまらなくないし押し引きもバランス良いです。ハンコックのバラバラと音がちりばめられるようなソロも素晴らしい。The Sorcerer はハンコック、Pee Wee は Tony Williams の楽曲でともに、ハンコック、トニー、ロン・カーターが参加しているマイルスの Sorcerer 1967年からの楽曲です。I Fall In Love Too Easily は、Jule Styne, Sammy Cahn のスタンダード。シナトラが歌い、マイルスの Seven Steps to Heaven でもこのメンバーで吹き込まれています。しっとりとした美しい響きで大人なジャズの雰囲気にと Wynton Marsalis の響きが合っています。
 廉価版のいい加減なパッケージではありますが聴き終わっても余韻の残るアルバムでした。モンクとマイルスの曲の選曲が多いのですが、このメンバーでは、ただのスタンダードの演奏ではなくなるところが良かったです。当たりです🎯

piano : Herbie Hancock
bass : Ron Carter
drums : Tony Williams
trumpet : Wynton Marsalis

producer : David Rubinson & Friends Inc., Herbie Hancock

recorded  July 28, 1981 at CBS Sony Studios, Shinanomachi, Tokyo, Japan

1. Well You Needn't
2. 'Round Midnight
3. Clear Ways
4. A Quick Sketch
5. The Eye Of The Hurricane
6. Parade
7. The Sorcerer
8. Pee Wee
9. I Fall In Love Too Easily



▶ Parade


  

2023年3月4日土曜日

Thelonious Monk / Piano Solo On Vogue

 


 フランスの Disques Vogueレーベルに1954年に残した作品です。モンクは Blue Noteで2作品を録音し 1952年に Prestige に移籍し、この1954年に2作品を発表しています。モンクは、Salon International du Jazz なるジャズ祭に出演でフランスに行きフェスが終わった6月7日にラジオ用にこの作品は録音されていたのですが、 Prestige と契約していたため直ぐに発売されることはなく後にLPでリリースされたとのこと。ちなみにこの作品の録音前に行ったフェスでの演奏はフランスのミュージシャンとのトリオで、腕は良かったらしいが相性はあまりよくなかったらしいです。
 つまり、当時 Prestige での契約条件は良くなかったこと、ニューヨークでの酒場での演奏をするための キャバレー・カード も無かったこと等からフランスへの出稼ぎに行ってこの名作が録音されたわけでファンとしては嬉しい限り。ジャケットはオリジナルのものからは変更されているようですが、CDの方はラッパーがピアノ弾いてるみたいなジャケ写で私としては下の元のジャケ写が好み。そしてよく見ると、このジャケットのスペルは【THEOLONIOUS】!となっています。それも上下です。Vogueレーベルの担当者は発売後に、どこで気づいたのだろうか、その時の焦り具合が気になります。
 

 モンクのソロ作品と言えば、1957年の Himself、1957年 Alone In San Francisco、 1965年 Solo Monk があり。最初のソロ作品は、この1954年のこのPiano Solo On Vogue。
 録音した時代によってモンクのモンクらしさは異なります。私的にはモンク自身そのものが滲み出ており、独特の世界エッセンスが色濃くでて一人フランスで尖がった演奏をしているこのソロ作品がかなり好きです。素朴な演奏ですがじっくり聞くと味わいがドンドンでてくる作品です。
 それではこの作品を再度聴きながらレビューです。 'Round About Midnight 1944年モンク作曲で、モンクの作曲した作品の中でスタンダードとして最もよく演奏されている曲と思います。この時点で作曲してから10年経っているのかと思いながら聴くと、迷い箸のような音の模索は無くこの演奏は完成されているなと感じます。Evidence これもモンク作。テーマのメロディ自体がバッキングのような個性的な楽曲です。モンク独特の不協和音が適度にちりばめられていて1拍ベース音を先に入れて独特のリズム感が生まれています。Smoke Gets In Your Eyes これはJerome Kernの名スタンダードで、出だしは原曲に忠実にしながら段々とモンク節をちりばめていく演奏は素晴らしい。有名スタンダードをとりあえず選曲してアルバムに入れている感じは全くなくモンクの曲のように収められています。Well You Needn't モンク作曲で自身の作品でも数多く演奏されている名曲で、ユーモラスに感じてしまうメロディーが特徴的な曲でソロで弾かれると、また良いですね。Reflections これもモンク作品ですね。優雅なメロディーで正統派な感じがする曲で、モンク作品の中では比較的モンク臭さが少ない曲かと思います。このアルバムの演奏でも割合と滑らかで平坦な演奏の部類に属する感じでゴージャス感があります。We See もモンク作品です。テーマの音のばらけ具合が丁度良くモンクらしさが出る。曲も良いがモンクの演奏もかなりのもの。聴き直して再確認です。Eronel これもモンクです。エレガントなメロディーの中の狂気のような感じでしょうか。正統派のコードの流れに少しづつ違和感が入ってくるのが気もち良いですね。クセになります。Off Minor これも良い曲ですよね。モンク作品です。モンクは楽々弾いていますが、こういった曲を頭の中に入れてインプロビゼーションしていくのって大変そうだなって思いながら聴いてます。Hackensack モンクの作品ですが、テーマは Well You Needn't と被っていますね。どういった事情なのか調べるのは面倒になってきたんで置いときます。
 これはいつでも聴けるお気に入りの場所に保存しておきます。

1.'Round About Midnight
2. Evidence
3. Smoke Gets In Your Eyes
4. Well You Needn't
5. Reflections
6. We See
7. Eronel
8. Off Minor
【Bonus】
9. Hackensack





  

2023年3月3日金曜日

Miles Davis / Live Evil


 1950~60年代前半ぐらいの品行方正なジャズをやっていたマイルスの方がどちらかと言えば好みではあるんですが、Bitches Brew が最初に購入したマイルスのアルバムでした。カッコいいことやってるんだなという認識はありましたが、興味はそれほどなくマイルス自体は自分は好きではないという意識がありましたが、色々な年代のアルバムを聴いているうちに、これは奥が深いかもしれないと思い始め、現時点での音源所有枚数は38タイトルで1人のアーチストでは最大の音源数を所有するようになってしまいました。人は変わるもんで自分でもビックリです。
 これは自分はマイルスは好きではないんだと自覚している段階でタワレコでウロウロしていてジャケットが目につき、帯を見たら「ここでのキース・ジャレットの演奏は本当に凄まじい」に煽られて思わずレジに行ってしまった作品であります。


 気になるジャケットデザインのモチーフはコンセプトはインドで描かれているのは「シヴァ神」(1曲目のタイトルでもありますね)それで、シタールが使われていたりギターが John McLaughlin(ジョン・マクラフリン)な訳です。ファンクに彩られた大傑作と帯にある通り、Michael Henderson(マイケル・ヘンダーソン)のベースのファンク要素がかなり強め。ほとばしるエネルギーは感じるけど多少聴いてて疲れるアルバムかなあというのが最初に聴いたころの感想で、好きに暴れろと言わんばかりの皆さんのソロに若干チープさを感じていました。が、このタイプのアルバムは聴いているうちに印象が変わるもので、チープだと感じていたものが、今回聴き直すと独創的に感じたことを表現する手段としてフォーマットが使われ楽器の持つパワーをリズムと電気的な力で増幅させている素晴らしい演奏に感じてきました。結局 Bitches Brew と比較し てどっちが好みと思っていたことは、どうでもよいことで、楽しみ方は色々あるということですね。
 先に総評を書いてしまいましたが曲のレビューです。Sivad は Davis の逆さ読みで1970年の Get Up With It の楽曲 Directions と Honky Tonk を Teo Macero が編集合体させた作品で、Milesのワウ・トランペットがギターのような唸りを上げ邪悪なムード。ちなみにLive-Evil も Live のスペルを反対に書くと Evil で、このアルバム全体も交互に「静と動」が表現されるコンセプトとなっています。ということで Little Church は、Hermeto Pascoal作の静の作品で、不思議感漂う3分間となります。Medley: Gemini/Double Image そしてGemini 、Joe Zawinul作の Double Image のメドレーとなっていますが、レビューは未だ書いてありませんが Gemini は聴いたばかり、どこが使われているのかは実は未だ私にはわかっていません。静と動の繰り返しと書きましたが静が続いています。What I Say は、HendersonとDeJohnetteのリズム隊がきっちりかみ合った動の部分になります。今は気になりませんが多分ここら辺の8ビートのドラムが私には雑に聞こえていたんですかね。Keith Jarrettのキーボードも暴れています。Milesもプレイで応えますが、ここら辺が今はオッとなるんですが聴きなれていないうちは雑に聞こえていたのもわかる気がします。ラストはDeJohnetteの圧巻のドラムはファンクではなくロック。Nem Um Talvez は、またもHermeto Pascoal 作の静の4分作品。なるほど、この人は静の役割なんですね。
 と、ここで1枚目CDは終わり、2枚目 Selim は Hermeto Pascoal 作の2分。タイトルは Miles の逆綴りで、ここまでくると相反性を示すアートよりも駄洒落感あります。Funky Tonk は、そうです動になり、Miles のワウをかけた電化マイルスのトランペットでブラックな感じ満載で、McLaughlin のカオスなギター、Jarrett のとりとめの無い独奏状態のエレピ・ソロが不思議感を出しながら、コードス・トロークのギターが入ったりで不思議感満載になりファンクで終了。この良さが前回聴いた時は理解できませんでした。最後は Inamorata and Narration by Conrad Roberts で動のハイテンション。基本ファンク路線で、Miles のワウ・トランペットは、結構前に出て仕事しています。おそらく観客は大興奮でしょう。

2CDで1971年発売で、1970年12月19日のセラー・ドアで行われたライブ。コロムビア・レコードのスタジオB録音が収録されています。

trumpet : Miles Davis
guitar : John McLaughlin (except 2-1 2-2)
percussion : Airto Moreira
drums : Jack DeJohnette

producer : Teo Macero

【Disc1】
1. Sivad
bass : Michael Henderson
piano : Keith Jarrett
sax : Gary Bartz

2. Little Church
bass : Dave Holland
keyboards : Chick Corea, Herbie Hancock, Keith Jarrett
sax : Steve Grossman
electric piano, whistling : H. Pascoal

3. Medley: Gemini / Double Image
bass : Dave Holland
drums : Billy Cobham
keyboards : Chick Corea, Joe Zawinul
sax : Wayne Shorter
sitar : Khalil Balakrishna

4. What I Say
bass : Michael Henderson
piano : Keith Jarrett
sax : Gary Bartz

5. Nem Um Talvez
bass : Ron Carter
keyboards : Chick Corea, Herbie Hancock, Keith Jarrett
sax : Steve Grossman
voice : Hermeto Pascoal

【Disc2】
1. Selim
bass : Ron Carter
keyboards : Chick Corea, Herbie Hancock, Keith Jarrett
sax : Steve Grossman
voice  Hermeto Pascoal

2. Funky Tonk
bass : Michael Henderson
piano : Keith Jarrett
sax : Gary Bartz

3. Inamorata And Narration
bass : Michael Henderson
piano : Keith Jarrett
sax : Gary Bartz



Sivad


Selim


  

2023年2月26日日曜日

Chris Connor / Sings Lullabys Of Birdland

 

  ジャズ・ボーカルについては、ここ数年で以前よりは積極的に聴くようになってきたのですが、きっかけは本屋で売っていた Ella Fitzgerald(エラ・フィッツジェラルド)のCDブックでした。グループでしたら The Manhattan Transfer、New York Voicesぐらいは聴いていたのですが、ソロ・ボーカルについては聴いてこなかったので、エラの技巧を凝らした楽器のように声をコントロールしているジャズ・ボーカルも良いもんだなと思い、歴史的女性ボーカリストとしては、Billie Holiday、Sarah Vaughan 等を勉強し、系統は違うけど Nina Simone なんかも購入したりしています。でもジャズ・ボーカルの棚に並んでいる Norah Jones は、結構持っていますけど、ジャズではないよな?と思ってています。
 そんな訳で毎回ではないですがジャズ・ボーカルの棚も見ているわけですが、ちょうどジャケットが見えるように置いてあった、このCDは試聴なしで購入してみました。


 少し家で寝かせてから、いつもの「おでんバー」で聴いてみます。マスターに
Chris Connor は知っているか聞いたけれど知らないとのことでした。が最初の曲を聴いたとたんお互いに「ああ、聴いたことはある」。私も聴いたことはありました。他の曲は耳に覚えはありませんでしたが聴きごたえがあると言うより心地よいアルバムでした。
 さて、聞き覚えのある曲が収録されている、このアルバムは1953年、54年録音のBethlehem Records の初期のヒット作品で、Chris Connor の初レコーディング。調べていたら、レーベルの創始者、Gus Wildi(ガス・ウィルディ)は、このアルバムのヒットによって他社と差別化としてボーカル重視路線をとったとの所見を拝見もしたのですが、wikiで見た限りボーカリストは、あんまりいなかったように見て取れます。
 さて、そんなウンチクを仕入れたところでアルバムのレビューです。Lullaby Of Birdland は、George Shearinの1952年作品で、このアルバムの発売された1954年に Sarah Vaughan もこの曲をカバーしてヒットさせています。2分24秒ですが彼女の若干ハスキーなしっとり声が雰囲気ピッタリです。What Is There To Say は、1934年ブロードウェイのコメディ用の曲で、作曲はVernon Duke、作詞はE.Y.Harburg で、もう言葉はいらない、ただいるだけでいいと言うラブ・ソングです。Bill Evans / Every body Digs にも収録されていましたが、どちらも甘くてフワッと包み込んでくれるような曲になっていて素敵です。And what is there to do、Try A Little Tenderness と2曲続けてスローな展開になりますが、特に技巧を使うことも無く率直に歌われているのがジャズではあるがポップス的な感覚に感じます。Spring Is Here は1938年のRichard Charles Rodgers作曲、Lorenz Hart作詞のミュージカル・ナンバーで、最後のサビの Maybe it's because nobody loves me あたりが盛り上がります。Why Shouldn’t I も Coll Porter によるミュージカル作品。Ask Me は Hindeling-Polland と書いてありますが、いつの作品かは不明。トランペットとビッグ・バンドで歌われていますが、曲の雰囲気と口笛でヒュイヒュイとの煽りは明らかにミュージカルで、かなりエンターテイメントに振り切っている楽しい曲。Blue Silhouette Dale-Samos-Vall とあります。月明かりに物思うゆったり感ただよいます。Chiquita From Chi-Wah-Wah はBonacio- La Marge- Franklin は、今までで一番賑やかな演奏で楽しい曲です。歌に入る前の演奏部分が長くトランペット・ソロ、ピアノ・ソロもたっぷりとあります。良き時代のように感じます。A Cottage For Sale は Conlet-Robinson で再びゆったり歌い上げです。このパターンは多いですが彼女の声によく合うのは確か。How Long Has This Been Going On? は、G.&I.Gershwinですからガーシュイン作品。ミュージカルっぽい曲が続いていたので、ジャズっぽい感じになって少しリフレッシュです。ギターソロはこのアルバムでは初めてですかね。Stella By Starlight は Young-Washington で超メジャーなステラです。アコーディオン・ソロも入りバンドも盛り上がり、Chris Connor も、くだけた感じで歌いやすそうです。Gone With The Wind は Wrubel-Magidson 。なぜかボーカルの録音レベルがいきなり高くなったように感じそこに少し驚きました。He’s Coming Home は Deforest とあります。地味なバラードですが好きです。Goodbye はJenkins でアルバムの最後にしては地味な曲ですが、コーマーシャルな部分よりもアーティスティックな作品なので、そこに意味を持たせているんでしょうか。原盤はここで終了ですが、本アルバムは、Why Shouldn’t I の (Alt. Take) が取り直しの最初の音声から含めて入っています。最後の方のボーカルのブレイク部分がこのバージョンの方が短めで、本番録音の方がアレンジ的には凝っていました。
 とにかく甘い声質が素敵なアルバムでした。娯楽が少なかった時代であれば、この声に惚れる人は多かったに違いありません。ジャズ・ボーカルの技巧的なことは無い歌い方なので、彼女のボイスの美しさを堪能してください。確かに売れたんだろうなこれは。

vocals : Chris Connor
accordion : Don Burns (8 -14)
bass : Vinnie Burke  (8 -14)
guitar : Joe Cinderella (8 -14)
drums : Art Mardigan (8 -14)
clarinet, flute : Ronny Odrich (8 -14)

1. Lullaby Of Birdland
2. Try A Little Tenderness
3. What Is There To Say
4. Spring Is Here
5. Why Shouldn’t I
6. Ask Me
7. Blue Silhouette
8. Chiquita From Chi-Wah-Wah
9. A Cottage For Sale
10. How Long Has This Been Going On?
11. Stella By Starlight
12. Gone With The Wind
13. He’s Coming Home
14. Goodbye
15. Why Shouldn’t I (Alt. Take)





  

2023年2月25日土曜日

Fascinated Session


 The Fascinations と Native のメンバーを中心に、JABBERLOOP、quasiomode、Sleep Walker、東京クラブ・ジャズ・バンド のメンバーでレコーディングしたクラブジャズの最強ジャズ・セッション盤。
 発売はコンピレーションアルバム、再発アルバム等の制作販売等が中心の販売の Routine records で、前から気になっていて未だによくわからない The Routine Funk / Kei Kobayashi featuring B-BAND on "Perfect Day" なんてアルバムを作製している DJ 小林径氏の所属しているレーベルですね。
 レーベルについては謎だと思っていたら、解説発見したので掲載しときます。https://www.otaiweb.com/label/aboutroutine.htm
「1990年初期の渋谷。渋谷にあったDJバー・インクスティックでサウンドプロディースをしていたDJ小林径とU.F.O.の矢部直とで行われていたイヴェント" THAT'S HEALIN' FEELIN "の後発のイヴェントとしてスタートした。
 当時のメンバーは小林径の他にミュージック・ライターでもある荏開津広と弁護士ジェームス・P・ヴァイナー(後にレコード屋を宇田川町で開く)、東京スカ・パラダイス・オーケストラの青木達之(後に事故で亡くなる)、テイ・トウワの弟である鄭秀和(現在は建築士としてインテンショナリーズという若手建築家ユニットを結成)というラインアップで、イヴェントの内容はヘビーローテーションの曲は1曲も無く、インストゥルメンタルの方が歌よりも多いという今日では考えられない程マニアックな内容だった。
 ある日は小林径がエレンマキルウェンの誰も知らないような曲をかけていた。荏開津広はラストポエッツのパーカッシヴなトラックをかけていた。ジェームス・P・ヴァイナーはデンマークのアーティストのブラジリアン・フュージョンをかけていた。青木達之はニューオリンズのワイルド・マグノリアスをかけていた。
 学生のバンドのようなワックワック・リズムバンドがアーチー・ベル・タイプの曲を演奏し出すと、渋谷公会堂のライブが終わってROUTINEに遊びに来ていたブランニュー・ヘヴィースの面々がその中に割って入って、皆でジャズ・ファンクのジャム・セッションが始まる。ROUTINEはいつもそんな感じだった。
 フリーソウルやプチカート・ファイブのイヴェントなど渋谷系のメッカだったDJバー・インクスティックでただひたすらダークでマニアックな感じだった。そんなROUTINEが1993年に同名アルバムをリリースした。
 アベレージ・ホワイト・バンドみたいなリフで始まって、ジェームスのナレーションで幕を開けるこの曲は誰もがかっこいいと思った。アルバムは評価され海外でも評判になった。ロンドンのKISS FMでジャイルスは、プレイし、ストレート・ノー・チェイサー誌でもチャート・インし記事でも取り上げられた。
 ドイツの99レーベルからオファーが来て海外でもアルバムがリリースされた。しかし1995年にイヴェントは『このクオリティーを保っていけない』という理由で終了し、それからしばらくしてDJバー・インクスティックもなくなってしまった。
 でも人々の間からROUTINEの名前が途切れる事は無かった。ROUTINEは伝説になった。」


 Fire Cracker は、YMOのラテン風味、Night In Tunisia は、これでもかとラテンなんだけど、和製クラブ・ジャズとしてしっかり成立している素晴らしい出来。シカゴ Saturday In The Park がスウィングになっているところもマニアなミュージシャン魂を感じます。MR WALKER も心つかまれます。何より渡辺雅美のビブラフォンが気持ちよい。
 このアルバムは多分タワレコの試聴で購入したパターンのもので、私が quasiomode なんかを知るかなり前に購入していたのものです。音的に気に入っていたアルバムなので、このレビューを書き直していて quasiomode メンバーの参加なども改めて判明しました。やっぱり好きな音はこうやって集めていると何かしら関連性があるもんだと発見し面白いもんだと思います。ジャパンジャズマンたちのクオリティの高さに敬意を表します。旧来のジャズ・ファンにも若い人にもおすすめの素晴らしいアルバム🎵

piano : Taichi Sugimaru (4 to 7, 9, 10), Tetsu Norioka (1 to 3, 8, 11)
acoustic bass : Kenichi Ohkubo (4 to 7, 9, 10), Terumasa Nishikawa (1 to 3, 8, 11)
drums : Daisuke Yoshioka (11), Yohei  (1 to 3, 8), Yoshitaka Yamashita (4 to 7, 9, 10)
percussion – Takahiro "Matzz" Matsuoka (1 to 3)
alto sax : Daisuke (1 to 3, 5, 8), Tomoyoshi Nakamura (4, 7, 10, 11)
soprano sax : Tomoyoshi Nakamura (3)
tenor sax : Daisuke (4, 10), Masato Nakamura (2)
trumpet : Makoto (1 to 5, 8, 10)
flute : Tomoyoshi Nakamura (5)
vibraphone : Masami Watanabe (1 to 11)

producer : Masami Watanabe, Tomoyoshi Nakamura

recorded on December 23th, 2007 / January 30th, 2008 at Studio dedé

1. Fire Cracker (Fascinations + JABBERLOOP)
2. Night In Tunisia (Fascinations + JABBERLOOP)
3. Saturday In The Park(Fascinations + JABBERLOOP)
4. JAZZ FOR TWO(native + Fascinations + JABBERLOOP)
5. MARIKA (native + Fascinations)
6. POP AND CIRCUM ATANCE (native + Fascinations)
7. MR WALKER (native + Fascinations)
8. PROOF OF THE PUDDING(Fascinations + JABBERLOOP)
9. AMALGAM (native + Fascinations)
10. LET'S GET SWINGING(native + Fascinations + JABBERLOOP)
11. MR WALKER <REPRISE> (Fascinations)





  

2023年2月24日金曜日

Joe Public / Easy Come Easy Go


 これは1994年発売なので私が29歳の当時の関西勤務の頃に購入したヒップ・ホップ系のアルバムです。当時は若かったので、大阪界隈でロック系のセッションなども盛んに参加していました。手当たり次第にロック系のインディーズ・バンドなんかのCDも購入していた時期なので、新発売かなんかで試聴もせずに購入したんではないかな。何故購入にいたったのかは全く記憶にありません。昔は全くヒップ・ホップ系はアレルギー的に聴かなかったので、当時購入直後に聴いて以来、全く聴いていませんでした。


 アシッド系ジャズなんかを聴くようになったので、昔アレルギーのように聴いていなかったヒップ・ホップも最近は大丈夫。と言うことで、たまに聴くようになりました。自分の聴く音楽性の幅は年をとるごとに広がっています。このアルバム、ヒップ・ホップ的な手法の曲もありますが割とブラコン的な曲もありで、割と心地よいかもしれません。
 全く知らない人に等しいので調べてみると、1992年、1994年でアルバム2枚を出して消えていった人のようです。ジャンル的には New Jack Swing と言われるもののようですが、初めて聞きました。
 This Time は、Kool & The Gang の Jungle Boogi のサンプリング、Rumors、What Goes Aroundあたりのリズムとベースラインは最近好きなタイプのグルーブで、割と良いのかもしれないと聴き直しての感想でした。しかしヘビ・ロテには無理があるかな🎵

lead vocals, backing vocals, keyboards, drum programming, programmed by synthesizer, guitar : Jake
lead vocals, backing vocals, guitar : J.R.
lead vocals, backing vocals, bass guitar, drums, Dj Mix : Kev
backing vocals, drum programming : Dew
drums (additional) : Mike Porter

producer : Joe Public

1. Easy Come, Easy Go
2. Deeper
3. Your Love Is On
4. This Time
5. Things You Do 4 Luv
6. Call Me
7. I L.O.V.E. U
8. Show Me
9. Rumors
10. What Goes Around





  

2023年2月19日日曜日

土岐英史 片倉真由子 / After Dark

 

 土岐英史が2021年6月に亡くなってから、ソロ・アルバムを購入しはじめました。亡くなってから、亡くなってからは私のような人が多いのか暫くは品揃えが少なかったのが徐々にリアル店舗の棚の品揃えが増えてきているような気がします。そこでタワレコの定期チェックをしていると、この Days Of Delight の見慣れた岡本太郎ジャケット・シリーズで未だ聴いていないのがありました。お相手はピアノの片倉真由子でデュオ作品とのことで雑誌で知っているが未だ聴いたことの無いピアニストなのでワクワクします。これは家でしばらく眠らしてから、いつもの「おでんバー」で封を開けました。これを聴いた時には音楽マニアではないお客様が同席されていたので静かに耳を傾けていて、マスターも忙しそうだったので他の皆様の反応はよく覚えていません。他の方の印象を聴くのも楽しみなので少し残念。


 レビューをしていきます。東京・青山の岡本太郎記念館内にある岡本太郎のアトリエで録音されたとのことですが、アバンギャルドな芸術は爆発の印象はなく、ベタなスタンダードの枯葉は片倉真由子のピアノから始まります。そこにフワッと土岐のサックスがのってくる。奇抜なことはないのですが、フワッと出てくる土岐のサックスにインパクトがあります。After Dark は土岐さん作の楽曲です。ゆったりとしたピアノイントロが1分半、おやピアノの独奏になるのかと思ったら土岐さんがまたゆったりとした音でテーマを吹き始める。朗々と吹かれるアルト・サックスとどっしりした片倉真由子のピアノの演奏はどこまでも続くのかと思われるような演奏で10分弱の曲ですが長いなとも思わずに聞けました。How High the Moon は、1940年のMorgan Lewis 作曲, Nancy Hamilton 作詞のスタンダードで色んな人がやっていますが、私は Ella Fitzgerald の Ella in Berlin のアルバム最後で印象的だった曲。あちらでは激しい感じでしたが、ここでは明るく空に向かって響けとでもいうようなカラッとした演奏です。難しいことは入れずに、この曲を楽しめます。ソロ部分でのちょっとしたサックスとピアノが頤の間合いをとっているところなどはお互いの目で合図しているところが想像できるようなイメージでした。良いですよね。Gee Baby Ain't I Good to You はブルースのスタンダードで1929年の Andy Razaf、 Don Redman による名曲で、ブルース、ジャズのミュージシャンに問わず名演が多い名曲で大好きです。片倉真由子さんのピアノもとてもこの曲によく合っていると思います。ピアノ・ソロ部分でのモンクっぽいリズムの崩し方とかサビのコードを微妙にずらしているところとか聴き入ってしまいます。Back Home Blues 1951年の Charlie Parker 作曲で、ひねくれた?テーマが面白い曲ですね。ここでも片倉真由美の安定したピアノのバッキングで土岐さんのサックスが映えています。レコーディングの順番はわかりませんが、段々と息がぴったり合ってきているかのような演奏で、次の黒いオルフェにそのままなだれ込みます。ここでも早いパッセージなどは必要なくライブハウスでもない小さな喫茶店でライブを聴いているような気軽な演奏が心地よいです。I Hear a Rhapsody 1941年  George Fragos, Jack Baker, Dick Gasparre の作曲で、ポップスからジャズスタンダードで有名になった曲。土岐さんのイメージに合う曲ですね。Bill Evans と Jim Hall の Undercurrent では、もっと憂鬱な感じだったけど、ここでは力強い曲に変身です。最後に Lover Man 1941年 Jimmy Davis、Roger "Ram"Ramirez、James Sherman の作曲でこれも Ella Fitzgerald で有名になったスタンダードです。短めですがしっかりと締めくくってくれています。
 このアルバムも聞き入ってしまいました。改めて土岐さんのアルバムは良いです。やはり日本人として安心して聴けて共感できる和ジャズなんでしょうね。それと若い頃から聴いていた日本のポップスなんかにも、土岐さんのサックスが吹いている曲も相当あったはずなのでこの音が知らず知らずに刷り込まれていたのかもしれません。

alto sax, soprano sax : 土岐英史
piano : 片倉真由子

2019 年6 月18 日 岡本太郎記念館にて録音

1. 枯葉
2. After Dark
3. How High the Moon
4. Gee Baby Ain't I Good to You
5. Back Home Blues
6. 黒いオルフェ
7. I Hear a Rhapsody
8. Lover Man - dedicated to Noboru Shudo