亡くなってから、ふとその良さに気づいて集めだした土岐英史の作品はこれで6枚目になります。晩年はピアノやギターとのセッションが多かったのですがこのアルバムでは、サックスを中心とした、オーソドックスなカルテット・クインテットの作で2018年の録音で、前作の Missing What? からは2年ぶりのリリースとなりました。アルバムタイトルの Black Eyes は、土岐英史が「暗闇の中で自分自身を見つめるように、自分の内側を見つめることが大切だと思った」という思いから名付けられたとのこと。レコーディングは2020年に閉鎖した東京は新宿の Studio Greenbird で、レコーディングでは同じ空間で彼らが出す音を直接聞きたいと、セパレート・ブースを使わずに全員が同部屋で演奏をしたとのことです。
収録曲は全て土岐英史の作曲。「Black Eyes」や「Sky High」といったアップテンポな曲から、「Take Me Out to the Ballgame」といったカバー曲まで、バラエティ豊かな曲が含まれています。
さてレビューします。1曲目 Black Eyes は岡本太郎がモチーフです。 「顔は宇宙だ。眼は存在が宇宙と合体する穴だ」晩年はほとんど眼だけの作風となり、それがモチーフとなってこの曲が作られたようです。ただ、ここには芸術は爆発だ!は無く、静かなる情熱が表現されているように感じます。845は、なんてことはないオールドタイプのジャズのように聞こえますが、佐藤’ハチ’泰彦、 奥平真吾 の見せ場が満載で強力なリズム隊のグルーブを引き出しています。Picasso's Holiday は、ピカソに影響を受けた岡本太郎のことを意識して書いた曲と思われます。もしかしたら岡本太郎をピカソと見立てたのでしょうか。岡本太郎が提唱する「対極主義」は、当たり前やそれまでの常識など既存のイデオロギーや様式にあえて、それに反する「対極的」な考え方をぶつけ、一つの作品に詰め込み、その矛盾(つじつまが合わないこと)から生まれる緊張感が、見た人にその矛盾について考えさせ、新しい考えが生まれて前に進むことが出来るという考え方。この曲にはそんな矛盾は見えませんが、そんなことを考えていることに対する情熱的なパッションは感じられ、休日と言う印象は見受けられません。いや熱い。次いでは、片倉真由子のピアノを思い描いた Little Phoenix で、その通り片倉真由子の優雅でありながら芯の強いピアノの響きが楽しめます。C Minor は土岐さんお馴染みの曲で、土岐英史 feat. 竹田一彦 Live at "RAG" 、Little Boys Eyes
などにも収録されています。Thunder Head は、正調なビ・バップという感じで楽しいジャズの世界が広がります。管が2本は曲の広がりがあります。そして市原ひかりのフリューゲルホーンをイメージして書いた Lady Traveler です。この人のトランペットの発音も良いなあ。ライナーノーツに市原ひかりのインタビューが書いてあります。「土岐さんの“音”はインゴットのようなもの。普通は気泡が入るんです。でも土岐さんの音には一音一音に意味があり、人生のすべてが詰まっている。音に魂が宿っている。技術だけであの音は出せません。すぐれた芸術とおなじ。だから一音一音が心に響くんです。10年となりで吹いているけど、いまだにうまくブレンドできているとは思いません。でも10年後にはビタっと合うはず。それを信じてやっています」 そして最後は、MA-TA-NE ! ライブが終了する合図のような軽やかな曲でソロをとりやすい感じの曲で和気あいあいの演奏です。
土岐さんと言われないで聴いていたら、日本人とはわかりにくいですが、そう思って聴くときっちりと作りこんでいる感じはやはりジャパン・ジャズでしょうか。芸術を感じる普通に良いアルバムだなあ🎵
alto sax : 土岐英史(Hidefumi Toki)
piano : 片倉真由子(Mayuko Katakura)
bass : 佐藤’ハチ’泰彦(Yasuhiko Sato)
drums : 奥平真吾(Shingo Okudaira)
trumpet, bugle : 市原ひかり(Hikari Ichihara)
produced by Akiomi Hirano
recorded at Studio Greenbird on 23,24, July in 2018
1. Black Eyes
2. 845
3. Picasso's Holiday
4. Little Phoenix
5. C Minor
6. Thunder Head
7. Lady Traveler
8. MA-TA-NE !
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