2025年4月13日日曜日

Boscoe


 1970年代のシカゴのアフロ・ファンクで、発売は Kingdom Of Chad Records。かなりアンダー・グラウンドなサウンドで、Sun Ra、Art Ensemble Of Chicago などのスピリッツを内包しているとの評もありますが少し違うんですよね。ドロドロのサウンドはアーシーでコズミックさも感じます。レコードなんかは amazon で $4,500 ですから2024年5月現在のレートで、なんと 688,500円 と高額取引。今はレア過ぎて出品もありませんので円安の今では恐ろしい金額になってしまうに違いありません。もちろん私はリイシューのCDの購入でしたからリーズナブル。入手が中古か新品かは覚えていません。2025年2月現在¥4,500でした。高くねえか?DiskUnionでは、リイシューLPは\2,750、タワレコでは、LP¥5,190 CD\2,990でしたが両方ともソールド・アウトでした。
 リイシュー版の発売は、レアものの再発/発掘を手がけるシカゴのレーベルの NUMERO が立ち上げた紙ジャケ専門レーベル「アスタリクス」とのこと。アスタリクスの表記は恐らく「4*」(ライナーノーツの裏側にありました)愛聴盤ではありますが、今回調べて見て初めて知りました。


 メンバーは6人でベースの Ron Harris は、Ramsey Lewis の Salongo に参加していましたが、他のメンバーの活動は結構マイナーな感じです。


 それでは全曲レビューです。Introduction は、スタートからスピリチュアルな幕開け。はるか昔、最初に聴いた時には退屈な感じがした気がしますが、何十回も聴いていると、このドラマチックで大袈裟な構成とオドロオドロしいボーカルが大好きになってきます。またエンディングのベースが怪しさを醸し出すところも最高です。そしてイントロのギターのアルペジオが、普通過ぎて怪しい。Writin' On The Wall も、イントロに続き怪しさ満載の朗読ボーカルとトランス状態になっているかのような叫び。管楽器はトランペットとトロンボーンですが誰が吹いているのかフルートがホラーっぽい。行きつけの音楽好きの集う「おでんバー」の常連の一人には、このエネルギー最高ですねの誉め言葉頂きました。He Keeps You あたりからは、普通にファンクの演奏ですがボーカルが野太い声で、更にどこかがアフリカンな響き。ここらへんでベースの Ron Harris の変態なベースラインとバカ馬なテクニックと正確なリズム感が気になってきます。We Ain't Free では、グルービーなリズムになってきて普通にファンクもするのかと妙に感心していると、いきなりのベースとドラムとパーカッションのアフリカンの長い間奏とフリーのようなソロに脳がやられてから最後はテクニック剝き出しのソロ合戦とサイケな展開にノックアウトです。If I Had My Way は は Sly とかが好きな人には受け入れやすい楽曲になります。ギターのカッティングとホーン部隊の上手さにも注目です。I'm What You Need では、メロー・ソウルの始まりにコマーシャルな部分を感じながら、ボーカルの野太いバリトン・ボイスが怪しさを加えながらファルセットのボーカルがポップさを加えコーラスがチャンと上手い所が怖いです。Money Won't Save You ここまで聴いてくると、この曲が一番普通に聞こえるので何かつまらなく思えてくるようになれば、相当このアルバムを聴きこんでいる証拠でしょう。私には、もはや普通過ぎて刺激が足りません。Now And Den きっとNow and Then なんですかね。普通ではありますがカオスを含んだスピリチュアルなソウル風ファンクです。
 ジャケットがレゲエカラーなのでそっち系かと思いきや、そちら要素は全くなかった。スピリチュアル一歩手前のファンク。古きよきサウンドで全体的にリバーブかかりすぎでサイケな雰囲気カオスな香りが漂い、マニアにはヨダレものの一枚かと思います🎵

 
 
 

guitar : James Rice
bass : Ron Harris
drums : Steve Cobb
sax : Darry Johnson
trumpet : Harold Warner
trombone : Reg Holden

producer : Joseph Ehrenberg
Recorded at Paragon Studios, Chicago, Illinois.
Originally released in 1973.
all songs written by Boscoe

1. Introduction
2. Writin' On The Wall
3. He Keeps You
4. We Ain't Free
5. If I Had My Way
6. I'm What You Need
7. Money Won't Save You
8. Now And Den





  

2025年4月12日土曜日

Roberta Flack & Donny Hathaway


 Roberta Flack (ロバータ・フラッグ)と Donny Hathaway(ダニー・ハザウェイ)の共演で、1972年作でグラミー賞をとっている名作です。二人とも、ハワード大学にて音楽理論を学んでいた頃から仲が良いと書かれていたものを見受けたため、同級生だったのかと思いましたが調べて見ると、Roberta Flack は1937年生まれで15歳でハワード大学へ入学19歳で卒業なので在籍期間は1952~1956年。クラシックと声楽を学んでいました。一方 Donny Hathaway は1945年生まれ入学年はわからないですが、特進の記述は見当たらないため、18歳で入学とすると1963~1967年の在籍のはずなので、どう考えても同級生ではありませんが、クラシックを学んでいた点で共有点があります。ハワード大学は、ワシントンD.C.に所在するアメリカ合衆国の私立大で、1867年創立。全米屈指の名門歴史的黒人大学で、現在でも全米最高峰の黒人大学と言われていて ”非黒人も入学は可能ではある程度” のようです。多くのアメリカの黒人パワーエリートを輩出し、カマラ・ハリス米国副大統領の出身校としても知られています。


 ハワード大学出身で、クラシックを学び、ピアノを得意とするシンガーであるなどの共通も多く、この時代に、新たなソウルミュージックの表現、社会における問題や自分達の意見を詞にするニューソウルのムーヴメントを Curtis Mayfield 等とともに牽引していた二人であるとも言えます。
 さてバラード主体のボーカルとハーモニーが特徴のこのアルバム。全曲レビューしてみます。 I (Who Have Nothing)  まずは、Roberta Flack が切り出し、サビは二人のデュオ、Donny Hathaway の独唱から二人の掛け合い、情感たっぷりに腹の底から湧き出てくるような感情をの表現で、やり過ぎなのではと思うぐらいの力が入った1曲です。ハーモニーも素晴らしいですが伸ばすフレーズで、二人のビブラートの長さもシンクロしているのは今回聴いて気付きました。二人のバンドはギター Eric Gale、ベース Chuck Rainey、ドラム Bernard Purdie の当時の業界では、ありとあらゆる現場で活躍していた三人です。You've Got A Friend は、Carole King の名曲で James Taylor もヒットさせた名曲。ただこの曲に限っては Donny Hathaway の Live! に収録されているバージョン が一番好きかもしれません。ギターは、David Sanborn でもお馴染みの David Spinozza が弾いています。ストローク・プレイですが、埋もれずに密かに存在感のあるプレイです。Baby I Love You は、Aretha Franklin も取り上げた名曲。ここではカントリー風のアレンジで、サビの I Love You のリフレインは、こちらの方が印象強くアイデアの勝利。Be Real Black For Me アメリカの公民権運動を象徴する歌詞をラブ・ソングにしている曲ですね。曲調的には、いかにも Donny Hathaway の色が強いでしょうか。 You've Lost That Loving Feeling は、ブルーアイド・ソウルの The Righteous Brothers のヒット曲ですが Donny Hathaway の色が強いような気がします。 For All We Know は、Roberta Flack のピアノをバックに Donny Hathaway が歌うスタンダードで、Nat King ColeBillie Holiday で歌われているものとは全く違う解釈です。近い解釈では Nina Simone も発見しクラシックの素養がある人の解釈としては近いものがあるかもしれません。ここまでシリアスな楽曲の展開ですが Where Is The Love で、ポピュラーな感じになり、ホッとします。これは、かなりヒットした曲で、この二人のバージョンが印象的です。Come Ye Disconsolate はゴスペルで、このアルバムのボーカル曲のラストにこの曲を持ってきたことは、様々な音楽性がある二人の、また共通の音楽の大事なルーツでもあることを示していることかと思います。そして最後は二人のピアノのデュオの Mood です。Donny Hathaway のエレピの揺れと、Roberta Flack のクラシカルなピアノのプレイは、二人の音楽の相性の良さを見せてくれます。
 売れたアルバムでありますが、商業的な部分だけでなく二人の音楽表現の最高の形となった一枚であることを認識させてくれる素晴らしい一枚。これもじっくり聴きこんだ方が楽しいアルバムですね🎶

producer : Arif Mardin, Joel Dorn
recorded at Atlantic Recording Studios, New York, N.Y.
Additional recording for "You've Got A Friend" at Regent sound Studios, New York, N.Y.

1. I (Who Have Nothing) / Jerry Leiber, Mike Stoller, Carlo Donida
vocals, electric Piano : Roberta Flack
vocals, piano : Donny Hathaway
guitar : Eric Gale
electric bass : Chuck Rainey
drums : Bernard Purdie
percussion : Ralph MacDonald
2. You've Got A Friend / Carole King
vocals : Roberta Flack
vocals, electric piano : Donny Hathaway
flute : Joe Gentle
guitar : David Spinozza
electric bass : Chuck Rainey
drums : Billy Cobham
percussion : Ralph MacDonald
3. Baby I Love You / Ronnie Shannon
vocals : Roberta Flack
vocals, piano : Donny Hathaway
guitar : Eric Gale
electric bass : Chuck Rainey
drums : Bernard Purdie
percussion : Ralph MacDonald
4. Be Real Black For Me / harles Mann, Donny Hathaway, Roberta Flack
vocals : Roberta Flack
vocals, piano, electric piano : Donny Hathaway
guitar : Eric Gale
electric bass : Chuck Rainey
drums : Bernard Purdie
percussion : Ralph MacDonald
5. You've Lost That Loving Feeling / Barry Mann, Phil Spector, Cynthia Weil
vocals, piano : Roberta Flack
vocals, piano, electric piano : Donny Hathaway
soprano sax : Joe Farrell
guitar : Eric Gale
electric bass : Chuck Rainey
drums : Bernard Purdie
percussion : Ralph MacDonald
6. For All We Know / J. Fred Coots, Sam M. Lewis
piano : Roberta Flack
vocals : Donny Hathaway
flute : Hubert Laws
guitar : Eric Gale
electric bass : Chuck Rainey
drums : Bernard Purdie
percussion : Ralph MacDonald
7. Where Is The Love / Ralph MacDonald, William Salter
vocals : Roberta Flack
vocals,  electric piano : Donny Hathaway
soprano sax : Joe Farrell
guitar : Eric Gale
electric bass : Chuck Rainey
drums : Bernard Purdie
percussion : Ralph MacDonald
vibraphone : Jack Jennings
8. When Love Has Grown / Donny Hathaway, Eugene McDaniels
vocals : Roberta Flack
vocals, piano, electric piano : Donny Hathaway
flute : Hubert Laws
guitar : Eric Gale
electric bass : Chuck Rainey
drums : Bernard Purdie
percussion : Ralph MacDonald
9. Come Ye Disconsolate / Thomas Moore, Samuel Webbe, Sr.)
vocals, organ : Roberta Flack
vocals, piano : Donny Hathaway
guitar : Eric Gale
electric bass : Chuck Rainey
drums : Bernard Purdie
percussion : Ralph MacDonald
10. Mood / Roberta Flack
piano : Roberta Flack
electric piano : Donny Hathaway



▶ Mood


  

2025年4月11日金曜日

Billy Joel / Greatest Hits 1973-1985 VolumeⅠ & Volume Ⅱ


 もう今の若い世代は、Billy Joel を知らない人も多いのではないかと思いますが、Piano Man、The Stranger、The Stranger、My Life ぐらいは聴いたことはあるんじゃないかと思います。1973年の Piano Man での再デビューから、直ぐに全盛期で10年以上にわたってよくも、まあこれだけヒット曲を出せたもんだというヒットメイカーで、アルバムは持っていないけど曲はかなり知ってるミュージシャンなんて、そうはいません。
 先ほど1973年で再デビューと書いていたのは1971年 Cold Spring Harbor は、Family Productions なるレーベルから発売されたが、録音されたテープの再生速度を上げられてレコードが発売されてしまい、別人んお歌声になりヒットもしなかったのですが、Columbia Recods と契約し、Piano Man を発売したからで再デビューと言うよりは、メジャーデビューかもしれません。そこからの An Innocent Man までのアルバムは下記の通り 
Cold Spring Harbor(1971)
Piano Man(1973)
Streetlife Serenade(1974)
Turnstiles(1976)
The Stranger(1977)
52nd Street(1978)
Glass Houses(1980)
The Nylon Curtain(1982)
An Innocent Man(1983)

 少し調べていると、さすが超メジャー級の大物です。Sony Music Entertainment に Billy Joel の日本語ページがありました。sonymusic.co.jp/artist/BillyJoel/ 
 『ピアノ・マン』 50周年 × 来日記念 としてヒット曲をピックアップした特集ページがありましたので引用して、紹介しときます。全曲レビューは今回いいかな。

Piano Man(1973)歌詞に登場するキャラクター達は実在の人物で、タダ酒を回してくれるバーテンダーはビリーのマネージャー、酔っ払いを上手にあしらっているウエイトレスは当時の妻エリザベスだ。そして、酒で孤独を紛らわせる客をピアノ演奏で気分よくさせているのは、もちろんビリー自身。歌詞の中で 「こんなところで何やっているんだ?」 と客に鼓舞されているように、ビリーの音楽的才能は誰の耳にも明らかで、ほどなくコロムビア・レコードから声がかかったことでビリーは約6か月間のピアノ・マン生活を卒業するとともに、そこでつぶさに観察した市井(しせい) の人々の様子をこの曲に永遠に刻みつけた。
3拍子のワルツの名曲です。


Just The Way You Are (1977) この曲のミュージック・ビデオは、大ブレイク直前の1977年秋に撮影されたもので、カーリーヘアにギョロっとした大きな目で熱唱する若々しいビリーの姿を見ることができる。そのルックスは、ちょうど同時期に大ヒットしていた映画 『ロッキー』 の主人公を彷彿とさせた。この曲の日本盤シングルのジャケットでは、ボクシング・グローブを背負った写真が使われていて、ますますロッキーを連想させたが、実際にビリーはボクシング経験者。アマチュアながら22勝4敗の好成績を残している。一見、‘バラード・シンガー’ というソフトな印象が強いビリーだが、生粋のニューヨーク育ちだけあって、ハードな側面を持ち合わせており、背景を知れば知るほど、奥深いミュージシャンだ。
この曲のメロディーを夢の中で書かれたとのこと。


Honesty (1978) ティーンエイジャーの時からエンタメ業界に身を置き、大成功を収めるまでも、そして成功を収めてからも、不利なマネージメント契約や腹心マネージャーの横領など、数々の嘘や裏切りに振り回されてきたビリー。「‘誠実’ とは何てむなしい言葉」 とこの曲で歌ったが、4度目の結婚をして、2人の幼い娘(8歳と6歳)の親になった今現在のビリー(74歳)は、ようやく真の 「誠実さ」 を見つけることができたのかもしれない。
残念ながらこのベストに Honesty は入っていません。


Uptown Girl (1983) どこを聴いてもサビのような怒涛の美メロで構成されたキャッチーな大ヒット・ナンバー(1983年全米3位)。当時付き合っていたトップ・モデルのクリスティ・ブリンクリーを ‘アップタウン・ガール’ に見立て、‘ダウンタウン・ボーイ’ ビリーの恋心を、古き良きアメリカン・ポップス風の歌詞に仕立てて歌っている。ミュージック・ビデオには実際にクリスティも登場し、「‘美女と野獣’ のカップル誕生」 とゴシップ紙の見出しが躍った。「付き合う女性で男はこうも変化するものなのか?」 と思えるほど、ビリーの髪型や服装もこの時期、急に垢抜けた感があったのはご愛嬌。1985年3月、ビリーの恋心は成就し、クリスティとめでたく結婚、12月には長女が誕生した。
KANさんの代表曲 「愛は勝つ」 はこの曲を目指して作られたとのこと。この曲を聴けば、オーそうだと納得。


【Disc1】1973-1977
1. Piano Man
2. Captain Jack
3. The Entertainer
4. Say Goodbye to Hollywood
5. New York State of Mind
6. The Stranger
7. Scenes from an Italian Restaurant
8. Just the Way You Are
9. Movin' Out (Anthony's Song)
10. Only the Good Die Young
11. She's Always a Woman

【Disc2】1978-1985
1. My Life
2. Big Shot [Explicit]
3. You May Be Right
4. It's Still Rock and Roll to Me
5. Don't Ask Me Why
6. She's Got a Way
7. Pressure
8. Allentown
9. Goodnight Saigon
10. Tell Her About It
11. Uptown Girl
12. The Longest Time
13. You're Only Human (Second Wind)
14. The Night Is Still Young


  

2025年4月10日木曜日

Thelonious Monk Quartet / Misterioso


 Monk が Bud Powell のヘロンイン所持を庇ってキャバレーカードを没収されたのが1951年、その後NYエリアでの演奏活動が出来ずにいたが、マネージャーの Harry Colomby と ニカ夫人の尽力で1957年に奪回し、NYでの活動を再開し、Coltrane と1957年7月18日から12月26日までマンハッタンの Five Spot で活動することになります。その1958年のニューヨークの Five Spot Cafe でのライブ録音がこのアルバム。同じショーの録音が Thelonious in Action として発売されています(残念ながら持ってません)。また、恐ろしく音の悪い未発表音源の The Thelonious Monk Quartet Featuring John Coltrane / Live at the Five Spot Discovery! (1957) も後に発売されています。この時代それほど当たり前に、このクラスのジャズ・アーチストのライブが身近に聞けたということで、これだけ凄い演奏なのに酒を飲んで騒いでいる客がいます。私もこんなライブ聞きながら騒ぎながら酔っ払ってみたいです。


 なお、ジャケットはイタリアの画家 Giorgio De Chirico(キリコ)の作品です。後のシュルレアリスムに大きな影響を与えた画家だそうです。「口頭、記述、その他のあらゆる方法によって、思考の真の動きを表現しようとする純粋な心的オートマティスム。理性による監視をすべて排除し、美的・道徳的なすべての先入見から離れた、思考の書き取りを定義し、シュルレアリスムはジークムント・フロイトの精神分析とカール・マルクスの革命思想を思想的基盤とし、無意識の探求・表出による人間の全体性の回復を目指した」という難解な定義と歴史があるようですが、日本では1930年以降はブルトンが提唱した無意識の探求という本来の目的から離れ、「現実離れした奇抜で幻想的な芸術」という意味で「シュール」という日本独自の概念・表現が生まれることになったそうです。


 1957年に Five Spot へ復帰したメンバーは、サックスが John Coltrane、ベースがAhmed Abdul-Malik ドラムが Shadow Wilson この1958年では サックスが Johnny Griffin へ、ドラムが Roy Haynes へと変わっています。
 1957年のセッションでは John Coltrane の奔放さがあるため、モンクがリズムキープに回り気味のバランスだったような気がしますが、本アルバムでは Johnny Griffin のテナーとピアノの掛け合いの具合がちょうどよい気がします。録音によってモンク臭さの度合いが違うと思うのですが、これはモンク臭さがかなり出ていると思います。
 全曲レビューです。「Nutty」モンクの先導でテーマが始まるモンクらしい音が詰まっています。グリフィンのソロが始まったときは、モンクがリズムをきっちりと入れて伴走し、佳境になると、今度は音量も抑えめのコードを少し抑えるだけにしてドラムとベースに先導役を任せる。そこからピアノソロでは 自分の色を出しまくりながら、きっちりとスイング。 「Blues Five Spot」ブルース・セッションになります。聴きどころは Johnny Griffin を一人だけ置き去りの長めのソロかと思います。ソロの後の客のやる気のない拍手は少し残念。ベースソロまで行くと客の手拍子が少し聞こえます。ソロ回しの後のテーマに戻ると、モンクが最初だけ、エコーのようにフレーズを重ね、以降もやるのかなと期待していると通常運転の面白い仕掛けもあります。「Let's Cool One」これも他愛もないメロディーのテーマですが、モンクだと直ぐにわかる楽曲。優しい響きのコード進行に身を任せての、各自の伸びやかなソロが楽しいです。モンクも Johnny Griffin のソロで楽し気に弾きながら歌っているのが聞こえます。そしてまた Johnny Griffin を一人だけ置き去りのソロですが、2曲目より更に長い超ロングソロで、今度は客の拍手はヤンヤになってきて良い雰囲気。当然続くモンクのソロもノリノリになるのは当然です。最後の〆の息もピッタリ。In Walked Bud このBud Powell のことでしょうか。珍しくモンク節ではない正調スイングのモンク曲です。Bud Powell は、50年代中期以降は麻薬やアルコールなどの中毒に苦しみ、精神障害(統合失調症を負ていたので、その励ましの曲かと思われます。Just A Gigol 本アルバムの中で唯一のモンク以外の作曲者の曲となりますが、しっかりモンク節を入れているピアノ・ソロです。ライブでしんみりするところですね。短いながらも味わい深い演奏です。「Misterioso」 非常に簡単な旋律でありながら、幾何学模様のように音が散りばめられている、印象が強烈なタイトル曲「Misterioso」あまりに印象的すぎて一度聴いたら忘れられないヤツです。この曲の Johnny Griffin も吹きすぎず、引っ込み過ぎず、非常に良い味を出してます。モンクのソロ中の休み時間は非常に長いですが、Johnny Griffin のソロに聞き入っているのでしょう。合間合間でウーと掛け声を入れてくるところがあります。モンクも、その後雄弁に語るかのような長尺のピアノ・ソロで、なるほどテーマ曲にした貫録の演奏です。「 'Round Midnight 」モンクの代表曲の一つで、モンクの曲の中でも後進のミュージシャンに演奏されて愛されている曲です。モンクは終始ご満悦で、ずっと唸り声が聞こえます。代表曲ではありますが、所謂モンク節は少な目なのにモンクの演奏とわかるのが、また本家。「Evidence」これはモンク節の権化のような楽曲で、メロディもそうなんですが、コードをタイミングが他の曲では節目節目にモンクが入ってくるのですが、この曲はずっとモンクで、この入れ方で更にスイング感が増しているような気もする魔法の旋律です。セミの鳴き声のようなモンクの唸り声はもう一つのBGM。
 「misterioso(ミステリオーソ)」とは、「カンタービレ」「マエストーソ」と同様、音楽用語「発想標語」の一つであり、神秘的に奏でよという標語です。なるほど🎶🎹

piano : Thelonious Monk 
tenor sax : Johnny Griffin
bass : Ahmed Abdul Malik
drums : Roy Haynes

producer : Orrin Keepnews
painting : Giorgio De Chirico
recorded at the Five Spot Café, New York City, July 9, 1958 & August 7, 1958

1. Nutty (Thelonious Monk)
2. Blues Five Spot  (Thelonious Monk)
3. Let's Cool One  (Thelonious Monk)
4. In Walked Bud  (Thelonious Monk)
5. Just A Gigol (Irving Caesar, Leonello Casucci)
6. Misterioso  (Thelonious Monk)
7. 'Round Midnight  (Thelonious Monk)
8. Evidence  (Thelonious Monk)

Nutty



  

2025年4月9日水曜日

Jimmy Smith / Crazy Baby

 

 Jimmy Smith については、1957年から1962年までのアルバム7枚分を集めた Jimmy Smith Vol3 Seven Classic Albums を持っていて、極めて品行方正な内容でしたので、ファンキーなオルガン奏者と言われている割に、ジャズ・オルガンの第一人者って、こんな演奏なのかと思っていました。しかし黒さ100%で粘着性が高くジャズというよりは、超ド・ジャズ・ファンクの Jimmy Smith Live ! Root Down を再度聴いて、ファンクな Jimmy Smith が無いかと中古屋で見ていたら、車の宣伝のようなジャケットに、タイトルは「クレージー」です。これはファンクっぽいヤツに違いないと2025年に入ってから購入しました。


 メンバーは、ベースレスのトリオで、ギターの Quentin Warren は所有音源ではお初。ドラムの Donald Bailey は、Jimmy Smith Vol3 Seven Classic Albums と、日本人ピアニスト 中島政雄 Masao Nakajima Quartet / KEMO・SABE(1979)に参加していました。
 それでは全曲レビューです。「When Johnny Comes Marching Home」解説によるとイギリス民謡の 3羽のカラス が下地にあるとのこと。出だしはマーチで勇ましく古臭いです。しかしギターソロが始まってからは、スイングするブルースに転じます。Quentin Warren のギターは所謂ジャズ系で暴れまくるタイプではないようです。バッキングのギターのカッティングもザクザク切り込んでくるタイプではなく大人な感じです。こういったスイングでのオルガンのペダル・ベースによるランニング・ベースは音の減衰が無いまま次の音に移るのがズンズンと前に引っ張られる感じがして気持ち良いです。「Makin' Whoopee」オルガンのスモーキーで擦れた音色と、ブルースハープのウプッという息継ぎのような破裂音のようなコードが入ってくるオルガンが良いです。このパーカッシブな感じがハモンドの出せる魅力の一つですね。これが高速で展開されるファンク曲でやられると、私の大好きなパターンになります。曲名の Whoopee は宴会でのバカ騒ぎのこと。「Night in Tunisia」は、ジャズファンなら誰もが知るスタンダード。特徴はなんといっても最初から繰り出される、Donald Bailey と Jimmy Smith の3連符連打でしょうか。Quentin Warren は、このバカ騒ぎのような3連には参加していない?と思いますが、もしかしたら3連フレーズの最後の少しだけタイミングずらした高音3連はギターかもしれないと期待してましたが、曲のラストで Jimmy Smith だけになった時にオルガンの音であることが判明。ギターソロは相変わらず品行方正です。「Sonnymoon for Two」Sonny Rollinsの作品の渋めのブルースで、淡々としてます。段々と盛り上げていく典型的なパターンですが、淡々と盛り上げていきます。「Mack the Knife」解説には「サキ・コロ」でおなじみの<モリタート>と書いてありますが、なんのこっちゃわかりません。調べて見れば Sonny Rollins / Saxophone Colossu (1956) の ④曲目 Moritat のことらしい。ネットが無い時代ならわからないところです。Makin' Whoopee で使っていたスモーキーな音と、ウっと言うコード音で、繰り返しフレーズの連符の部分がとても良いです。ドラムのブラシ・ワークが渋く、派手さはないけどスイング感を出しています。気が付けばギターは、またお休みと思ってたら最後のフェイド・アウト部分で爆音で鳴らさないと気付けない程度にコードを鳴らしていたようです。「What's New?」1939年に書かれたスタンダード。音圧強めなのにエレガントさがあります。「Alfredo」プロデューサーの Alfred Lion に捧げたスミスのオリジナルですが、曲名の o が、誤植なのか意味があるのか?オリジナルでは、この曲が最後なのでアルバムの締めがプロデューサー名とは、よくプロデューサーもOKしたもんです。💡だから o を付けて少しだけ控えめにしたのか?な。「If I Should Lose You」おまけですが、結構いい味出してますしアルバムのまとまりは崩さない演奏です。「When Lights Are Low」ベニーカーター作曲の1936年作品で、ハッピーな曲調で、これは軽くおまけって感じです。
 気になっていたカバー写真は、Reid Miles でした。Sonny Clark / Cool Struttin' (1958)  の女性のヒール足ジャケ、Eric Dolphy / Out To Lunch! (1964) のレストランの変な時計写真ジャケなんかが印象深いですが、ミュージシャンの人物画像も多数のアルバムに掲載している人です。カバー写真で期待するほどのファンク度は少ないですが、ソウルフルでジャズで良いアルバムでした。1960年より後のアルバムに期待してもう少し研究していきたいと思います🎶

organ : Jimmy Smith
guitar : Quentin Warren
drums : Donald Bailey

producer : Alfred Lion
recorded by : Rudy Van Gelder
recorded at the Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey on January 4, 1960.
songs 8 and 9 are cd bonus tracks.
photography by (cover photo) : Francis Wolff

1. When Johnny Comes Marching Home / Louis Lambert
2. Makin' Whoopee / Gus Kahn, Walter Donaldson
3. A Night In Tunesia / Dizzy Gillespie, Frank Paparelli
4. Sonnymoon For Two / Sonny Rollins
5. Mack The Knife / Bertolt Brecht, Kurt Weill, Marc Blitzstein
6. What's New / Bob Haggart, Johnny Burke
7. Alfredo / Jimmy Smith
8. If I Should Lose You / Leo Robin, Ralph Rainger
9. When Lights Are Low / Benny Carter, Spencer Williams 






  

2025年4月8日火曜日

Bill Evans / You Must Believe In Spring

 

 本作は1977年8月23, 24, 25日での、ハリウッド、キャピトルスタジオ録音されています。メンバーは1966年から事故死した Scott LaFaro の後継者として Bill Evans を支えてきたベースの Eddie Gomez、Crosscurrents(1977)Affinity(1979)のアルバムに参加しているドラムの Eliot Zigmund のトリオによるレコーディングで、このメンバーでは最後のレコーディングとなっています。この録音後、ビル・エヴァンスは1980年に亡くなり、没後の1981年に追悼盤としてリリースされています。
 水のように静かに響く内省的な魅力を秘めた曲が中心で決して幸せな気持ちで楽しんでピアノに向き合っていたわけではないことが音からわかります。この頃の Bill Evans は人生の中でも哀しい出来事が多すぎたことが知られています。12年の間連れ添った事実上の伴侶のエレイン夫人が1973年に自殺しています。またアルバムの録音後1979年の4月には音楽教師だった兄ハリーが自殺しているのです。(We Will Meet Again の 副題 For Harry はこのアルバムが発表されたことによる副題 )


 晩年の Bill Evans は、麻薬によって身体や顔がむくんでしまったことを隠すために髭を蓄えたり、ピチッとスーツを止めたりしていたそうで、時として指がむくんでしまって演奏に支障をきたすときもあったそうですが、この録音は良好な状態の時に録音されたようで、全く異常は感じ無い、後期の中でも素晴らしい録音と言われています。
 実際、改めて聴いてみていますが、かなり良い出来であり、聴きこんでの全曲レビューをしていきます。
 「B Minor Waltz (For Ellaine)」静かな鎮魂歌のようなテーマが、ゆっくりと展開されてテーマ部分が自然にアドリブに流れて行ってまた戻ってきます。亡くなってしまった内縁の妻 Ellaine のための曲ですが、1973年に彼女に別れ話をしたのは Bill Evans で、同年に原因であったネット・ザザーラと結婚しています。と言うことは彼女への愛ではなく謝罪の思いが込められた鎮魂歌なのかと思うと複雑です。「You Must Believe In Spring」最初はルパートのピアノ、そしてテーマ、よく聴いていると解説通りテーマ部分はテンポは微妙に揺れていますが全く違和感なく進行しているように聴こえます。そして自然な流れでのベースソロからピアノソロ、Eddie Gomez の積極的な介入と Bill Evans のピアノの相性の良さが際立ち、2曲目で静かにピークを迎えています。「Gary's Theme」更にメランコリックな曲調で高音の音の使い方が芸術的です。その美しいピアノの波の中で漂うような Eddie Gomez のベースは秀悦です。各楽器の音の粒立ちも良く録音も素晴らしい。「We Will Meet Again (For Harry)」先にも書きましたが For Harry とありますが、録音の時にはお兄さんは亡くなっていませんので、劇的な展開であるが故、プロデューサー兼マネージャーであった Helen Keane が副題を付けたものと思われます。「The Peacocks」孔雀の華やかなイメージよりは、絵にかいてある動かない孔雀をボーっと見つめているような始まりでぼんやりとしていますが、後半は情感が入ってきて静かな中に力強さが見えます。「Sometime Ago」これも静かな曲ですが、アルバムの中では穏やかな明るさがあり、よく聴くと静かに弾いてはいるが一音づつのアタックの強さが聴いてとれます。ベースソロへの流れも自然。「Theme From M*A*S*H」オリジナルでは最後の曲は、「M*A*S*H」という映画の主題歌。副題は物騒な感じですが悲壮感はなく楽し気な感じさえします。このアルバムではリズミカルな曲に入るのでメンバーの演奏も軽めです。
 以降は Bonus Tracks となります。「Without A Song」 静かに始まりはするものの、いきなりハッピーな展開に戸惑います。あくまでも、おまけなので優秀な演奏をつけておくコンセプトのようです。「Freddie Freeloader」 Miles Davis / Kind of Blue (1959)にて唯一外された曲の録音があったので載せておいた感じです。エレピも導入されています。「All Of You」Cole Porter 作品のラブ・ソングです。コンセプトはオリジナルの微塵もありませんが良い演奏です。
 Bill Evans の世界に酔いしれることのできる良いアルバムですが、ボーナストラックに注意をそがれてしまう感があるのが不思議な感覚になってしまう音源でした🎶🎹

piano : Bill Evans
bass : Eddie Gomez
drums : Eliot Zigmund

producer : Helen Keane, Tommy LiPuma
recorded at Capitol Studios, Hollywood, CA, August 23, 24, 25, 1977.

1. B Minor Waltz (For Ellaine)  / Bill Evans
2. You Must Believe In Spring  / Michel Legrand
3. Gary's Theme / Gary McFarland
4. We Will Meet Again (For Harry)  / Bill Evans
5. The Peacocks / Jimmy Rowles
6. Sometime Ago / Sergio Mihanovich
7. Theme From M*A*S*H (aka Sucide is Painless)/ Johnny Mandel
【Bonus Tracks】
8. Without A Song / Vincent Youmans
9. Freddie Freeloader / Miles Davis
10. All Of You / Cole Porter





  

2025年4月7日月曜日

Motörhead / No Sleep 'Til Hammersmith


 MotörheadのOは上に点が二つのってます。ドイツ、フィンランド語などで使われるようですが彼らは英国のバンド。私が若かりし頃に購入したものですから、ここら辺を聴いてたのは1981年リリースのライブ盤だから高校生ぐらいですが、高校生の時にCDデッキは持ってなかったので、本盤は大人になってから懐かしんでの購入のはずです。


 このアルバムはバンドにとって初の、そして唯一の全英No.1の座を獲得した歴史的ライブ・アルバムで、豪快でヘビーなロックンロールでとにかく音がでかい。三人組で、ガンガン、ゴリゴリと鳴ってバーンと炸裂する音の連続攻撃が収録されています。ライブはイギリスのニューキャッスル・シティホールでの1981年3月30日の録音を中心に、同ホールの29日公演から2曲、28日のリーズ、クイーンズ・ホールでの公演から2曲が収録されています。後にリイシューして発売された同名のアルバムには、3月27日~30日までの4日で3か所、4日空けて4月3日でのライブが収められていますので、かなり詰め込まれた日程でのツアーが組まれていたことがわかります。大がかりなステージの設置でしょうから、設営スタッフにとってもハードなツアーです。私も学生の時にコンサートの設営のアルバイトをしていましたが、ジャズ系のアーチストは大変でも、まあ大変。ロック系は機材の多さ、重さは比にならない多さでした。当時私が組んでいたジャズ研究会時代のバンドのドラマーがスピーカーの設置で指骨折とかして、ギプスしながらライブハウスでドラム叩いてたこと思いだします。
 と、私の思い出は置いときまして、アルバム名に Hammersmith と付いていますので、Queens Hall, Newcastle City Hall やんと気づく方も多いかと思いますが、私は今まで数十年間気づきませんでした。Hammersmith は5,000人収容のロンドンの大劇場で、1970〜80年代のロックシーンで最も重要なライブ会場で多くの大物アーチストが演奏しています。昔の日本武道館のような立ち位置で Motörheadも何度もステージに立っています。そのため、ハマースミスはロック・ファンにとって象徴的な場所でした。「No Sleep 'Til Hammersmith(ハマースミスまで眠らず)」というタイトルは、バンドが過酷なツアースケジュールをこなしていたこと(前述していますが、アルバムの収録日からも想像できます)、メンバーは、ツアー中はほとんど眠れないほどの過密ハードなスケジュールであ他とも思われます。最終的にこのツアーが、ゴール地点として「Hammersmith」が使われたかどうかは解りませんでしたが、やってもやらなくても目標は「Hammersmith」であったのかと思われます。
 久しぶりに聞いてもゾクゾクするドライブ感、痛快な爆音、トリオならではのゴリゴリ感が最高です。全曲レビューはしませんが、聴いてない人は購入して聴いてほしいアルバムです。ベーシストの Lemmy Kilmister が2015年に亡くなるまで40年間粥活動で更公式HP imotorhead.com は充実🎶🎸

lead vocals, bass : Lemmy Kilmister
guitar, backing vocals : "Fast" Eddie Clarke
drums : Phil "Philthy Animal" Taylor

producer : Vic Maile
recorded at Queens Hall, Leeds, Newcastle City Hall

① 28 March 1981: Queen's Hall, Leeds, England
② 29 March 1981: City Hall, Newcastle, England
③ 30 March 1981: City Hall, Newcastle, England

1. Ace Of Spades / ③
2. Stay Clean / ③
3. Metropolis / ③
4. The Hammer / ②
5. Iron Horse / 1980 unknown date
6. No Class / ①
7. Overkill / ③
8. (We Are)The Road Crew / ③
9. Capricorn / ③
10. Bomber / ①
11. Motorhead / ②





  

2025年4月6日日曜日

渡辺香津美 Kazumi Watanabe / Dogatana


 2024年2月27日、渡辺香津美氏は、軽井沢の自宅で脳幹出血によって倒れ救急搬送されました。同年の12月17日に10月17日に自宅に戻って治療に専念していることを、谷川公子氏の note ギタリスト渡辺香津美の今〜その3 で報告されています。その時点では要介護認定5、右目の瞬き、左手の指先だけが、かすかに動く程度であるとのこと。今はどこまで良くなられているのかはわかりません。我々は香津美氏の作ってくれた非常に多くの作品を楽しむことが出来ます。谷川公子氏の note はそこで止まってしまっているのですが、介護はかなり大変なことと思い、もうギターは弾かなくて良いので、回復された便りがどこかで見れれば嬉しいと願っております。


 1981年リリースのアコーステック・ギターによる作品。タイトル Dogatana には、どんな意味があるのか?と思い、参加ミュージシャンの頭文字の羅列かなと思いましたが全く違います。日本人ミュージシャンも多く参加しているので、日本字らしく刀の名前かなと思い、ひらがな検索すると、💡土刀ではありませんか? 正解は「渡辺」の漢字から、そ「氵」と「辶」を取ったら「度刀」になる。これを読むと「どがたな」=「DOGATANA」となる。なるほど。
 アルバムをレビューしときましょう。Nuevo Espresso イントロは Mike Mainieri のビブラホンから始まるジャズで、渡辺香津美のギターは Adamas の Ovation です。当時のこのギターを使っていたミュージシャンも多く、私も欲しかったのですが、かなりお値段で断念した記憶があります。何が違うかと言えば、ボディの素材で、ヘリコプターの会社で新しく開発した羽根の素材が、ヘリコプターの羽根には向かなかった振動の多い素材をギターに応用したもので1979年あたりから普及し始めた表が木、裏がカーボングラファイトという素材を使った丸いラウンドバッグエレアコ・ギターです。


 話がそれましたが、2曲目は Loosey Goosey 石田長生、山岸潤史との、ジャカジャカ・ギター・セッションで、全員がオベーションを使っています。プロ・ギタリストの皆さんのAdamas 愛が伝わるセッションで、とにかくこのギターを使って弾きまくるのが、楽しくてしょうがないのが伝わります。生ギターだけど少しペシャっとした音が速弾き時にお互いのギターの音を邪魔しないし、思いっきりストロークしても鳴りが平均的なので、やはり独特です。チャーと石田長生の Baho を思い出します。 Ti-Fa-Let 渡辺香津美の一人多重録音作品で、幻想的な曲です。アリアのカスタム・メイドのベースとギターのダブル・ネックを使っていると書いてありますが、演奏の主体はシンセで、どこにギターが入っているのかは非常にわかりにくいです。Island フルートの David Liebman とのセッションで、ギターの持つ和音の響きを活かした演奏で、繊細で透明感のある世界を作っています。Diana この曲はWayne Shorter の Native Dancer のカバーのようで、この曲をギター一本で演奏しようと思うのがマニアック。Waterfall - Autumn ピアノの Warren Bernhardt デュオで、先のギターひとりの世界観も良いのだが、もう一人違う楽器との共演によって広い世界観のある曲になる対比も良いです。Please Don't Bundle Me 次の一騎打ちはギターの Larry Coryell になりました。ピアノやフルートとの共演では繊細な世界観を表現していたのが、ギタリスト同士になるとギターの上手い悪ガキのような演奏になるのは、また面白いところ。Haru No Tsurara ドラムとベースが加わって、今回渡辺香津美氏が使ったギター、シンセ類の楽器が総動員で爽やかなフュージョン・サウンドで、広がる展開の大曲」に思えますが、熱が入ってきたとこで、フェイドアウト。続きが気になる余韻の演出です。
 ギターマニアな側面が目立ち、楽曲もバラバラに思えますが、楽器愛とともに共演者の個性を引き出すための様々な音楽性を持った曲を散りばめているアルバムでした。やっぱり日本の誇る天才ギタリストの実力は半端でないことを実感🎶

produced by 渡辺香津美 Kazumi Watanabe
Recorded & Mixed by Scott Litt & James Farber at Power Station, New York, Spring~Fall 1981

1. Nuevo Espresso / Kazumi Watanabe
guitar (Obation Adamas) : Kazumi Watanabe-渡辺香津美
vibraphone : Mike Mainieri
2. Loosey Goosey / Kazumi Watanabe
guitar (Obation Adamas 12strings) : Kazumi Watanabe-渡辺香津美
guitar (Obation Adamas) : Osamu Ishida-石田長生
guitar (Obation Adamas) : June Yamagishi-山岸潤史
3. Ti-Fa-Let / Kazumi Watanabe
Aria Custom Made Double Neck Guitar & Bass 
Roland MC-4, Arp Odessey, Propbet 5 : Kazumi Watanabe-渡辺香津美
4. Island / Kazumi Watanabe
guitar (Obation Adamas) : Kazumi Watanabe-渡辺香津美
alto flute : David Liebman
5. Diana / Wayne Shorter
guitar (Obation Adamas) : Kazumi Watanabe-渡辺香津美
6. Waterfall - Autumn / Kazumi Watanabe
guitar (Obation Adamas) : Kazumi Watanabe-渡辺香津美
piano : Warren Bernhardt
7. Please Don't Bundle Me / Kazumi Watanabe
guitar (Obation Adamas) : Kazumi Watanabe-渡辺香津美
guitar (Obation Adamas) :  Larry Coryell
8. Haru No Tsurara / Kazumi Watanabe
guitar (Obation Adamas, Electric guitar, Aria Double Neck) Roland MC-4, Arp Odessey, Propbet 1,Propbet 5 : Kazumi Watanabe-渡辺香津美
upright Bass : Nobuyoshi Ino-井野信義
drums : Hideo Yamaki-山木秀夫