Cortrane の代表作にして、Hard・Bop〜Mode への過渡期にリリースされた最重要作品である Giant Steps 。レコーディング・メンバーは、テナー・サックス John Coltrane, ベース Paul Chambers, ドラム Art Taylor, そして ピアノは Tommy Flanagan でした。
今になって知ったのですが、複雑に変化するコード進行(1コーラス16小節中に長3度という珍しい転調を10回行う)と、♩=240を超えるハイテンポでの音数に、Tommy Flanagan はついていけず、ピアノ・ソロでは途中からコードを押さえるだけになってしまい、コルトレーンが被せるようにサックス・ソロを入れてきた。コルトレーンのソロが良かったのか、Tommy Flanagan としては不本意な、このテイクがアルバムに採用されてしまったわけだが、なんと大ヒットとなった。という屈辱を味わった名手によるリベンジ・セッションとのこと。ただ、あちこち見ても本人談と書いてあるものは発見できなかったので、ホントにリベンジと本人が思ってこのアルバムを制作したのかは怪しくないかなとも私は思っています。
John Coltrane の Giant Steps 録音は1959年、肝臓癌で亡くなったのは1967年、録音から23年後、Coltrane 没後、15年後のリベンジです。曲目は Giant Steps に収録の Spiral, Countdown は収録されず、2. Central Park West が収録されています。
1曲だけではなく、ほぼ全てをトリビュートしたアルバムと言うのは珍しいかと思いますので、原盤と聞き比べながらレビューしていきます。原盤ではラストに収録されていたのが Mr. P.C. ベースの Paul Chambers の略が PC で、生きていて録音に参加している本人に捧げるのは怖いマイナー・ブルースです。原盤はかなり早いテンポで重い音ながらのベース・ラインの疾走感があります。フラナガンは、きっちりとソロを弾ききっていますが、注意して聴くと若干スピードに弾き手が翻弄されているところもあるような気もします。トミフラのアルバムでもスピードは速いですが当時の録音より、さすがに余裕を感じます。サックス無しでの全面ピアノでの演奏なので重厚感がありスイング感もあったり、途中でガツンとコードを叩いて変化をつけるところなども良かったです。Central Park West 原盤には収録されていませんが、コルトレーンが1960年に吹き込んで1964年の Coltrane’s Sound に収録されていたバラードで原盤のピアノは McCoy Tyner。こちらのフラナガンの方が広がりと透明感のある美しい仕上がりです。そして聴いていて気づいたのは Giant Steps と同じ主題とコード進行をこの曲に使っていること。なるほど他のアルバムの曲を収録した訳はここにあったのですね。Syeeda's Song Flute フラナガンは低音のリフから始め、4ビートに変化していきます。途中で一瞬ラテンのリズムを挟んだり、この録音メンバーの小粋な演出にも心意気を感じます。原盤も、最初は低音のリフから始まり、コルトレーンのサックスがアーシーな雰囲気を醸し出しています。雰囲気が全く違うので聴き比べると面白いかと思います。Cousin Mary 曲名通り、コルトレーンが従姉妹に捧げた曲で、マイルスの Cookin に収録されていた Blues By Five を元に書き下ろしたナンバーです。フラナガンの盤は安定して粒の揃ったサウンドで気持ちよくスイングしています。中盤のコードソロを使って、気分を盛り上げていくところも良い演出です。コルトレーンの盤の方は、やはりアーシーなサウンドで、やはり名盤と言われるだけあって、ツヤのあるサックスには聴いていると熱くなるようなパッションが感じられます。聴き比べればフラナガンのピアノは若くてアイデアは未だ少ないのかとも聴いて取れます。Naima コルトレーンが当時の奥方に捧げたバラードで、サビ以外は低音が同じ音が持続する通奏低音=ペダルノート・アプローチが特徴の曲だそうです。原盤では、フラナガンでは無くWynton Kelly がピアノを弾いていて、饒舌なコルトレーンが、感情をこめてロングトーンばかりが新鮮な感じ。フラナガンの盤もしっとりとした中に情熱のこもった演奏で良いと思います。コルトレーンの盤よりも曲の中での表情の変化が聴いて取れます。Giant Steps 今回の聴き比べで結構な回数を聴いてしまいました。これだけ集中して繰り返し聴くことも滅多にないことかと思いますが、注目してしまうのはピアノ・ソロの部分で故フラナガンには申し訳ない。しかしピアノソロに見切りをつけてコルトレーンが入ってくるところの他メンバーの反応も素晴らしく早いのも聴きどころの一つかとも思いました。フラナガンのリベンジは、コルトレーンの盤よりも少しテンポは落としての演奏ですが、速ければ良いもんでもない。しっかりと年月をかけてこの曲を自身の中で消化した演奏で、表情のつけ方も素晴らしいですしスイング感もしっかりバンドの演奏でも出ていてお釣りがくる演奏だと思います。原盤には無い George Mraz のベースソロと続くドラム・ソロとソロ回しを終えて、最後は華麗なピアノソロで壮大に終わるのは感動的でもある。果たしてリベンジなのか、コルトレーンへの敬意なのか。私的には後者では無いのかと思うのですがどうでしょう🎶🎹
piano : Tommy Flanagan
bass : George Mraz
drums : Al Foster
all composed by John Coltrane
producer : Horst Weber, Matthias Winckelmann
recorded by David Baker
recorded on February 17 & 18, 1982 at Eurosound, New York
1. Mr. P.C.