2024年11月23日土曜日

Erroll Garner / Plays Misty

 

 今や世界中の人に愛されるスタンダード Misty の初演が収録されているアルバムです。この曲は Erroll Garner(エロル・ガーナー)によって1954年に作曲されました。飛行機で移動中に唐突に魅力的なメロディが浮かんで、楽譜が書けなかったために、忘れないように反復してホテルにタクシーで急行し、テープ・レコーダーに録音した曲と言われています。曲名は本人ではなく友人から「霧のようにぼんやりとしている」と名付けられたそうで、確かに強力なメロディーでは無いのですが、なんとなく頭に残るのがこの曲の良いところかもしれないです。
 このアルバムの初演では最初の8小節はオクターブでテーマが弾かれ、左手は4拍刻みのコード伴奏。続く8小節では合間にごく簡単なフェイクが挿入され、サビの前でやっとアルペジオが挿入される。サビの後半も基本的にはテーマの演奏でストップ・タイムを使用しながらエンディングとなりアドリブの部分はありません。名演というよりはエロル・ガーナーの記憶に留めるための小作品のような録音ですが、アルバムタイトルであり1曲目に冠されています。
 藤本史昭氏の、ライナーノーツによると、彼は「芸術家としてのジャズピアノ」の評価は眼中になく「ジャズはエンターテイメントである」という信念であったとのことが書いてあり、聞く人が楽しければ良いという観点からすれば Misty は楽曲の素晴らしさだけ伝えられれば曲の形式や評論家に評価されるアドリブなんかはなくても別に構わなかったのかと考えましたが、他の曲もこの時代の録音だけにほぼ全曲が約3分にまとめられております。つまりは Misty はテーマがスローテンポのバラードで長かったのでアドリブを入れる時間がなかった方が正解のような気もします。


 このアルバムを購入してから、初めて封を開けて聴いたのは、やはりいつもの「おでんバー」です。今日はこれを聴こうと思って持っていったら、あまり見慣れないお客さんが4人ほど、おられました。近くのライブ・ハウスでのライブ終了後の打ち上げを終わったメンバーさんたちが盛り上がって、店の曲のリクエストはチャーリー・パーカー大会となっていました。それなりに、こちらも楽しんで聞いていましたが、かなり長い間チャーリー・パーカーだったので、こちらもソロソロ飽きてきたなと思い、持ってきた、このアルバムをかけると静かになって皆さん退散されました。ただ単に購入してきた「Misty」の原曲を聴きたかっただけなんで、実は他意はなかったのですが、他の常連さんには「やり手の撃退手法でしたね」と褒められてしまいました。皆さん飽きてたけどメンバーさんに遠慮して言えなかったようです。
 しかしその後の「おでんバー」常連さんのエロル・ガーナーの評価も、大げさな装飾音の多い表現でアドリブに面白みがないなどの評価で散々ではありました。その時にはジャズを聴きこんだ人の評価はそんなもんかなあと軽く受け止めながら何回か聴きなおしてこれを書いています。ライナーノーツにもあるように、改めて聴くと先ほど書いた3分にまとめらている楽曲が中心なのですから、起承転結のある長いアドリブが入れられるわけもなく、楽曲のテーマを効果的に客に印象付ける要素として、ビハインド・ザ・ビートや、装飾の多用やトレモロ、タイミングをずらす奏法などは基本的にわかりやすくて効果的な手法だったと思っています。したがって常連さんの言われることも納得。あとは好みの問題です。
 さてMistyにばかり光が当てられて、その他の曲はおそらく忘れ去られていることも多いかと思われるこのアルバムを再度聴き直してレビューしてみます。が、Misty さんざんレビューを書きましたが一点。とても録音状態が悪いです。Exactly Like You ブロードウェイ・ミュージカル Lew Leslie's International Revue の曲で、ベニー・グッドマンのRCAの録音で有名になった曲で、同ミュージカルでは On the Sunny Side of the Steet の方が有名なジャズ・スタンダードになっています。Erroll Garner はソツなく3分16秒にまとめていて目立ちませんが悪くない。You Are My Sunshine 中学生の頃に音楽か英語の時間に、この曲を歌って歌詞を暗記した思い出がありますので、思い出のメロディーです。暴力的ではありますがとても明るく饒舌な演奏になっています。What Is This Thing Called Love これも非常にアタックが強い音色です。ギターが入っているのかと思いきやピアノで、4ツを強力に刻んでいます。なるほど特徴的です。Frantonality このアルバムで2曲入っている Erroll Garner のオリジナルのうちの2曲目です。スリム・ゲイラードの演奏で Flat Food Floogie という曲名で聴いたものと同じメロディのテーマです。The Groove Juice Special と言うアルバムやビデオ memphis slim with Paul Jones + Slim Gaillard にも収録されています。歌詞を付け直して、違う曲名にしたのか?当時の大道芸的なミュージシャンでは、こんなコメディ的メロディも受けていたのかとか想像しています。うーんどちらが先なのか?Again バラードで Lionel Newman1948年に20世紀Fox映画の Road House の主題歌として作曲したものです。大袈裟にコードをビロビロとつけているので、うるさい人には下品と言われそうな弾き方ではありますが、わかりやすくて良いのではとも思えます。とにかく左手のコードのつけ方が直線的な人のようです。Where Or When これもピアノのタッチが直線的でゴツゴツとしてわかりやすいですね。コードの4ツ刻みは相変わらずギター的です。Love In Bloom 1934年のコメディ映画 She Loves Me Not の挿入歌とのことですが、非常に楽しい曲です。Erroll Garner のピアノ・タッチにぴったりです。Through A Long And Sleepless Night 繊細な曲は、この人には似合わないかと思いきや、男性的に弾かれても心動かす女性は当時多かったのかと思わせる、このアルバムの流れではジゴロ的に思える曲です。That Old Feeling 一風変わった楽曲で、力強すぎの強力タッチで大満足の〆です。
 他人の評価は気にせず、私的には Misty に満足しています。Through A Long And Sleepless Night 以外は3分以内の昔のレコードの楽曲形式です。でもガレスピの3分連続攻撃の20曲オムニバスは飽きますが、こちらは飽きないよなあとか、結構楽しみながら聴けて再度聴いたら好感度アップです🎶🎹

piano : Erroll Garner
bass : Wyatt Ruther
drums : Eugene ‘Fats’ Smith

recorded 1954

1. Misty (Erroll Garner)
2. Exactly Like You (Jimmy McHugh & Dorothy Fields)
3. You Are My Sunshine (Charles Mitchell, Jimmie Davis)
4. What Is This Thing Called Love (Cole Porter)
5. Frantonality (Erroll Garner)
6. Again (Dorcas Cochran, Lionel Newman)
7. Where Or When (Richard Rodgers & Lorenz Hart)
8. Love In Bloom (Leo Robin, Ralph Rainger)
9. Through A Long And Sleepless Night (Alfred Newman, Mack Gordon)
10. That Old Feeling (Lew Brown, Sammy Fain)

Misty




  

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