2024年3月17日日曜日

渡辺香津美 / esprit

 





 渡辺香津美氏がニューヨークで1996年にトリオで録音した作品です。パーカッション・プレイヤーの Mino Cinelu に一目ぼれで、このアルバム制作に至ったそうです。アルバムの中身は多彩で、インドから地中海をイメージさせる無国籍サウンドまで生ギターと電気ギターを使い分けての、ごった煮的サウンドです。それが故か、いつもの音楽好きの集う「おでんバー」では、弦楽器系のフュージョン作品はあまり好まれず、評判はあまりよくありませんでした。私的には極めて渡辺香津美を感じる日本的な緻密な作品は好きなのですけどね。店のコンポとの相性はあまり良くなくて薄っぺらく聞こえた気もします。
 ちなみに「esprit」 とは日本語で「精神」の意ですが、このアルバムの題名として色々な意味が込められているとのことを、渡辺香津美氏が自身で語っています。ライナーノーツと同じ内容のものがオフィシャルに掲載されていました。
 【おやつ】【遠足】とアルバムを続けてリリースする内に、すっかりアコースティッ クギターの持つパワーと可能性に目覚めた渡辺ですが、一方エレクトリックギターの 、あの官能の「クィ~~ン」は一度味をしめている以上、黙っていてもいつしか頭を もたげてきます。アコースティックギターの持つダイナミックレンジは、ある時はエ レクトリックよりもハードに、エフェクターを百万個繋げたよりもイマジネイティブ な表現ができるのだ、ということは確信していました。
 そして突き詰めると、エレク トリックギターも実はアコースティック楽器ではないか、ということに気づきました 。ラウドでなくとも、ドライブ感を表現できる…というのも地球上に「空気」という ものが存在するおかげです。
 そしてその空気《エアー》を媒体として、ミュージシャンはその精神《エスプリ》を 表現します。エスプリという言葉には、エスとプリというダブルミーニングが隠され ています。つまりエス…エスニック→ETHNIC→「民族の」、プリ→PREMI TIVE→「原始の」。
 そこに晴天の霹靂のように、素晴らしいヒントを与える人物が現れました。
 数年前、某野外フェスティバルのステージに登場したその男はたった一人で壷と太鼓 、ドラムセットからトライアングル、生ギターやボイスまで駆使して渡辺を桃源郷《 エクスタシー》へといざなってくれました。演奏が終わるやいなや渡辺は楽屋へ乱入 し、その男にむかって「いつか一緒にやろう」とラブコールを送ったのでした。その 男の名前は…ミノ・シネル。繊細かつ大胆、太鼓を叩けば雨が降るという呪術師の一 面を合わせもちつつ、ハイテクの鬼でもある。そしてなによりも音楽の身体性を熟知 している。
ユニットとしてより自由になるためには、もう一人相棒が必要でした。六弦ベースを まるで魔法のように操るスクーリー・スベリッソンの、現代音楽的ともいえるそのハ ーモニーと、プリミティブに回帰しようとでもするかのようなラインのセンスから、 彼もまた《光と影》のヒトである…と直感しました。
 東京生まれのギタリスト、マル ティニク生まれのパーカッショニスト、アイスランド生まれのベーシスト、そんな三 人がそれぞれのイマジネーションをどう《エスプリ》しているかを、皆さんと共有で きればと願っています。 渡辺香津美


 それでは「おでんバー」では評判が良くなかったこの作品をレビューしていきましょう。Havana 生ギターのシャリシャリの音でエスニックな曲です。リズムはパーカッションのシンプルな響きとポコポコのベースで、セッションの雰囲気が良く伝わる曲となっています。小沼ようすけ氏の作品にも、この作品のような展開の曲がよくあります。もっとも小沼氏よりも香津美氏の方が先輩なわけですから、こちらの方が元祖ですけどね。Tinkle これも小沼氏によくあるパターンですが、香津美氏はピック弾きの分フレージングが細かですがコードの混ぜ方のパターンとかは似ています。似せているのではなくギタリストなので似てくるののもあるかと思われます。La Lune では、エレクリック・ギターを巧みに操る香津美節が聴けます。縦横無尽のフレーズは派手さは無いですが相変わらず凄いです。Desperado は、エスニックに戻り複雑で展開が様々なテクニカルな曲、ベースの Skúli Sverrisson とのユニゾンは前半の聴きどころ、後半は香津美氏のギターのアイデアとテクニックが炸裂します。気持ち良い。Tears はベートーベンで、牧歌的に弾いてます。ここらへんはオジサン世代は音楽の時間に聴いてきた曲なので郷愁誘われます。Cascade はパーカッションの Mino Cinelu による楽曲です。即興のセッションと思われます。Puzzle Ring これはヒーリング・ミュージックのように頭の奥底に静かに響きます。懐の深さがうかがわれます。Astral Flakes~Axis 今までやってきた曲を混ぜているのでしょうか、抽象的なテーマがちりばめられた曲です。Morocco モロッコですか。行ったことは無いですが中近東的な音階が、それを感じさせてくれます。このトリオによく合います。Kara Kara は、カラッカラな砂漠のイメージを感じます。歪んだギターが太陽の日差しを表現しているような曲です。Lately 最後はスティービーワンダーですが、クラシック調で格調高い雰囲気です。ここら辺のまとめ方が香津美氏の魅力のような気がします。
 売れ線では無いですが、香津美氏が好きな方にはこれも、おすすめのアルバムです。ギター好きには心癒されるのでは無いでしょうか🎵

guitar : Kazumi Watanabe
bass : Skúli Sverrisson
percussion, drums : Mino Cinelu

recorded & mixed at Cinton Studio, New York.NY May 1996

composed by : Kazumi Watanabe (2-4, 6, 8-10), Koko Tanikawa (1, 7), Ludwig van Beethoven (5), Mino Cinelu (6), Skúli Sverrisson (8), Stevie Wonder (11)

1. Havana
2. Tinkle
3. La Lune
4. Desperado
5. Tears
6. Cascade
7. Puzzle Ring
8. Astral Flakes~Axis
9. Morocco
10. Kara Kara
11. Lately

▶ Havana



  

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